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第49話:公園での現実

 もう陽が沈みかけている公園は薄暗い。

 公園外にある駐輪場に自転車を止めると、クマチビ隊長たちにひまわりの種を渡し、一度解散を告げた。

 報酬は家で落ちあってということでまとめると、彼らは瞬く間にいなくなる。

 隠密行動が本当に得意すぎる。


 カンタを頭に乗せて、リュックからは猫2匹、亀1匹が顔を出しているが、そのまま公園を歩いていく。

 公園内の人たちに驚かれながら進むこと数分。

 ここにも大きな人集りが。


 ただしっかりとマスコミの規制があるようだ。

 警備員が囲み、公園でありながら出入り口が限られているここは警備しやすそうだ。

 ただ、通り過ぎる散歩の人たちや、ランニングの人たちにも気を配りながらの警備は骨が折れそうではある。

 でもマスコミ関係が紛れ込まないように、検問みたいなのもあるみたい。

 この手配も風間さんだろうな。手際が良すぎて本当に怖い!


「君は?」


 僕の頭に視線があたる。

 カンタのせいか。

 警備員さんはそれほど驚きもせず、僕に目を合わせると、もう一度、「君は?」と繰り返した。


「あ、中に行きたいんですが……」

「名前聞いてもいい?」

「……え、えっと、カケル、松岡駆です」


 警備員さんはタブレットを操作すると、すぐに柔らかい顔に変わった。


「君がカケルくんね。風間さん、奥で受け渡ししてるから行ってあげて」


 どうも、いろいろな事情を知っているよう。

 優しい笑顔に見送られ、僕は小さく会釈をして通り過ぎていくけど、彼らのタブレットには、飼い主と動物の一覧があるっぽい。



 本当に、抜かりなし!!!!



 進むにつれて人が多くなるけれど、飼い主の元に戻れた犬や猫たちの喜びの声、そして飼い主たちの声も聞こえてくる。


「みんな、お家に帰れるのね」


 ハチコの声に「そうだね」僕は返事をした。

 一番の奥に、風間さんが見える。

 駆け寄り、近づいていくと、他と少し様子が違うところがある。



 飼い主が、置いていく光景だ───



 必死に飼い主を呼ぶポメラニアンがいる。

 だけれど、まるで恐ろしいものでも見るかのように、そそくさと飼い主は去っていく。

 ………そうだ。

 このことも考えなければいけなかったんだ。




 みんながみんな、この現実を受け入れていないってことを───




「かえる……! かえるっ!!!」


 叫ぶポメラニアンを風間さんが優しく抱きしめた。


「ごめんなさいね……レオくんのお家は、お婆ちゃんのお家なの」

「かえる!!!」

「お婆ちゃんのお家に行こうね?……ね?」


 ポメラニアンの言語は不自由でも、人間の言葉は理解している。

 だから、飼い主に言われたこともわかっている。



 それでも帰りたい───



「レオ、あたいと遊ぶのよ!」


 颯爽と現れたのはハチミツだ。


「あんたと友達になってあげるわ、あたいがねっ」

「やだ!」

「やだじゃないわよ。ちょっとシロ、なんか言いなさいよ」

「んー、婆さんの家の飯は、めっちゃうまいぞ」

「わかった!」


 あっさり覆ったが、心の傷はゆっくり治していかなきゃならないのは間違いない。

 どう声をかけたらいいか迷っていると、モップが身を乗り出した。


「ハチミツ、モップ来たのっ! 遊ぶの!」

「あたちも来たの!」


 もぞもぞとリュックの中で暴れるので、遠くに行かないように言い聞かせてから地面へ下ろした。

 2匹は可愛い叫び声をあげながらハチミツの元へ行くと、ポメラニアンとも遊びだす。


 僕はそんな彼らを、動画に撮る。

 撮る。

 撮る!!!!


「カケルくん、日曜日のお父さんみたい」


 笑いながら現れたのは井上さんだ。


「だって可愛いからね!」


 それに舌打ちするのは兄だ。


「ったく、駆なら………」


 といいつつも、可愛らしい声につられてか、兄も動画を撮り始める。

 兄がこれほど2匹のことが好きだとは、全く気づいていなかった。

 2匹も兄のことを嫌ってないことから、兄のやつ、美味しいご飯で釣っていたとしか思えない。

 あとで、問いただそうと思う。


「あー! カケルくん、今回は大手柄だったわねっ!」


 振り返ると、風間さんだ。

 何か話そうにも忙しそうで、ペットボトルの水を押し付けられて、そのまま彼女は立ち去ってしまった。

 僕はありがたく半分ほど飲み、残りはカメさんにかけてあげる。


「ふぁ、生き返りますねぇ」


 適当な芝生の上に井上さんが座り込んだのを機に、僕も隣に腰を下ろした。

 なんだか、ようやく休んだ気がする。

 兄は軽快に写真を撮り続けているので、放っておくことにした。


「カケルくん、ほんと、お疲れ様」

「そんなことないよ」

「ううん。カケルくんの動きでね、世間の流れも変わったところがあるの」

「………へ?」


 井上さんが見せてくれたネット情報によると、今回の検体事件がかなり取りざたされたようで、非人道的だと批判が集まっているそうだ。


「なんで………?」

「誰かがバードテイマーの動画をあげたようなの。動物界の救世主だって」

「なにそれ」

「全部顔は隠れてるよ? ただ格好から中学生じゃないかって言われてて、さすが厨二ってネットに載ってた」

「……変装が役に立ったわけだ。……でも、なんだろ、すごく嬉しくない」

「わかる!」


 日が落ちると途端に落ちる気温に腕をさすりながら、井上さんがこちらを向いた。


「明日もここでワンちゃんと猫ちゃん、渡すんだって。お手伝いしない?」

「そだね。僕も最後は見届けたいし」


 遊ぶ彼らを眺めながらいうと、膝の上のカメさんがにょろりと首を伸ばした。


「カケルさん、いいんですか?」


 カメさんの心配そうな声に僕は笑う。


「うん。関わった以上、見送らないと。あ、そうだ、その、井上さん、」


 言葉に詰まった僕の理由にカメさんが気づいたようだ。

 にやりと笑ったように見える。


「リンちゃん、ですよ、カケルさん」


 思わず突っ込まれ、井上さんがそれに笑う。


「カケルくん、何?」


「その、あ、さ、31日、……よかったら、ハチミツも連れて……遊ばない?」


「………え?」


「えっ?」


 思わず、言ってはいけないことを言ったかと胃を縮める。

 だけど目があった井上さんは、とても嬉しそうに、僕には見える……けど、僕の思い込み……?


「……い、いいよ! 大丈夫! けど、なんか意外で驚いちゃった!」


「そ、そう? なんか、バタバタしっぱなしだったから。夏休みの楽しい思い出、ラストにしっかり作っときたくって」


「そだね! いいね、それ! そしたら明日さ、31日の予定も打ち合わせしながらお手伝いしよ?」


 その提案に僕も賛成したとき、カメさんとカンタが笑っている。

 なぜ笑っているのかは、ちょっと分からないけど、僕と井上さんのやり取りに笑っているのは間違いない。

 じとりと睨むと、カメさんはパカりと口を開け、


「リンさん、お弁当を所望したいのですが」

「ん、お弁当? わかったよ! 何がいい、カケルくん?」



 僕の膝の上でカメさんがウインクして見せるけど、どういう意味?

 ………これ、どういう意味!?



 ───まだまだ僕の青春は始まったばかり。

 今を楽しむことも、始まったばかりだ!

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