第48話:これからのこと
「日にちが、今、決まりました」
そのカメさんの言葉に、『何の?』と聞き返そうとして、僕は喉の奥で声を止めた。
日にち───
「……それは、いつ?」
「9月1日の朝には、魔法がとけます」
その言葉に、僕は固まった。
今日が8月29日。
あとたった2日………。
僕は空を仰ぐ。
秋がチラリと見えた空は、ただ水で薄めた青が伸びていて、この空が青くて綺麗だと思えていたのは、みんながいたからなんだ───
だからこそ、僕の足は固まった。
漕ぎ出せなかった。
どうしたらいいのか、わからない───
「カケルさん、」
カメさんの声だ。
「カケルさんの時間はもちろん、私たちの時間も進みます。なので、過去は変わりません。今まで過ごしてきたことは変えられません。だからこそ、これからをあなたは変えられるのです。ほんの少しでも、変えていけるのです」
カメさんの口がぱかりと開いて、それが笑顔に見える。
「──さ、カケルさん、あなたは今、何がしたいですか?」
カメさんの言葉を頭の中で反芻した。
僕がしたいこと。
何をしたいか。
何をしたいか───
「みんなと、今を楽しむっ!」
僕はそう言い切ると、4回目の青信号を待ってペダルを踏みこんだ。
「さ、ハチコ、モップ、カンタ、クマチビ隊長たちに、カメさん、今日はもちろんだけど、明日と明後日も大忙しだよっ!」
僕の声に、ハチコとモップが顔をほころばせ、カンタは漢らしくイケボで返事を、クマチビ隊長たちは可愛く敬礼をし、カメさんは大きく頷いてくれた。それを見て僕は笑って返事をし、勢いよく自転車を進ませる。
「ね、カメさん、このことは、世界中のカメさんも知ってるんでしょ?」
「いいえ、かなり限られた亀のみです。教授の亀など、もちろん知りません」
「そっか」
「リンさんや風間さん、みなさんに言うのですか?」
僕は首を横に振る。
「何かをさせようとか、何かをしなくちゃってなっても困るから、みんなには秘密。だから、カンタもハチコたちもみぃーんな秘密だよ、このこと」
言うと、真面目な顔で頷いてくれたが、どういう意味かわかっているんだろうか………
わかっていなくてもいいか。
「ハチコとモップとは、ずっと意思疎通できてたしね」
ちらりと見ると、ハチコとモップは自信ありげに返事をする。
「あたち、カケルと仲良しなの!」
「モップも! モップも!」
「仲良しさんだから、大丈夫だもんなっ」
「「うんっ」」
───この声が聞こえなくなるのが、あと2日。
しっかり動画に撮っておかなきゃ………!
なんか、矛盾してる?
……けど、いいことにしよ。
僕は考えをまとめると、坂の勢いに任せてスピードを上げる。
涼しくなり始めた風が気持ちよくって、ハチコとモップの声が可愛くって、カメさんの喜んでる顔が面白くって、カンタの毛並みが綺麗で、クマチビ隊長たちがカゴに張り付く姿が可愛くって、僕はペダルを必死に踏みつける。
ちょっと前がぼやけて見えづらかったけど、腕でごしごしこすったら、すぐに目の前が明るくなった。





