第42話:作戦、開始っ!
どんなにカメが大ボスでも、所詮カメ。
自分での移動に制限があるし、力もない。
だからこそ崇めるのかもしれない───
博士は大事そうにカメをなでて、台の上へと置いた。
カメは爪をカチカチと鳴らしながら、僕に近づいてくる。
「ワタシは何もかも知っているんだよ、カケルくん」
その声に反応したのは、リュックの中のカメさんだ。
もぞもぞとはい出たカメさんは僕の肩で声高らかに言う。
「君ほどの知能がありながら、こんなことをしているとは、屑オブ屑のサイッテーのカメだ! カメ上にも置けませんっ」
「やっぱり君がついていたか。クサガメのカメ!」
このやりとりを僕は肩を見て、目の前のカメを見て………という感じなんだけど、迫力が、ない。
目の前の博士は、目を輝かせてる。ちょっと、キモい。
僕は小さく咳払いをして、言ってみる。
「……いつから僕の正体が?」
僕がキャップを逆さにかぶると、カメが返事をする。
「タモツさんが弟を連れてくるって言ったからですよ。3番目なんて真っ赤な嘘なのもわかってます」
「じゃ、どうするつもり?」
「当たり前じゃないですか。バードテイマーなんて、目障りなんですよ。もう少しで実験が本番を迎えます」
「………本番?」
これに反応したのは、兄だ。
「兄さん、本番って?」
「脳波テストだ」
「それって……」
「よく知らんが、頭をパッカリ開くのは間違いない」
にっこり微笑んだ博士が続ける。
「ようやく国から許可がおりてね。AAランクの犬と猫、7匹を検査することになった」
博士が目配せすると、作業していた3人の研究員のほか、さらに奥の部屋から3人、そして千葉がじりじりと距離を縮めてくる。
「もちろん、君のところの猫ちゃんや、お友達のワンちゃんもいる。でも、邪魔はさせられないんだよ……」
残念そうな博士の声だが、どう見てもにじり寄る大学生は楽しそうだ。
仕返ししたい、というのが顔に書いてある。僕が鳥で追い払った人たちなのは間違いない。
とっさに伸ばされた腕をよける。
しがみつくカメさんを胸に抱えるが、兄に千葉の腕がぐんと伸びた。
兄はその手を払いのけ、タックルをかます。
「おおおおお!!!!」
兄の唸る声が響き、ガチャンと檻を揺らす。
その動きに一瞬怯えるが、すぐに兄に加勢しはじめた。
オリの隙間から、抑えられた千葉の服に噛みついたのだ。
「……この犬!」
千葉は腹いせに檻を叩くが、それでも彼らは怯まない。
それだけ、家に帰りたい。
彼らの意思は生きている!
「駆っ!」
兄の声に振り返るも、手助けに行けない。
僕に3人、兄さんに4人の男の腕が降り注いでいるからだ。
なんとか腕を振り払い、僕は台の上に飛び上がった。
「ヒッチコック作戦、開始!!!!!」
僕の声が高らかに部屋にこだまする。
だが、それと同時に僕の足が捕まり、床に転がされ、さらに羽交い締めに。
なすがままリュックを剥がされたが、そこには、最終兵器がいることを、まだ彼らは知らない───





