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第41話:研究所の意味って?

 兄が千葉と呼んだ先輩はヒョロガリという感じで、僕が殴っても折れそうなほど、色が白くて細い。

 奥を見ると他に研究員というのだろうか? 3人、いる。

 兄の説明では常時5人程度の人間がここに滞在してるというから、あと1人、奥の部屋にでもいそうだ。


(たもつ)、今日は犬がきたんだけど、こいつはBだな。怒るのはいっちょ前でさ」


 土足で入れるその研究室は、壁に等間隔の窓がはめ込まれている。

 ただカーテンはなく、磨いてもいないため曇っていて、明るいはずの研究室がどんよりと感じる。

 そのせいか、煌々と電気が灯り、机が壁を囲むように置かれている。

 机の上は雑に書類が散らばり、パソコンの電源は付けっ放しだ。

 記録を常にとっているのだろうが、もう少し整理整頓すべきだと思う。


 この部屋の中央に、どんと置かれているのはステンレスの台だ。

 消毒液、ガーゼ、脱脂綿など、あまり見たくない器具が並ぶ。

 ただ血生臭いことはないようだ。

 そう思うのは、メスやハサミなど、刃物が見えないのと、廃棄用のゴミ箱を見てもその形跡が1つもないからだ。


 それだけで、僕は少し安心する。

 ここに連れて来られた動物たちが切り刻まれたことはない、そう兄は言ってたけど、本当なんだと信じられる。


 そして、奥に()()()がいる。

 大きな檻だ───


 でも檻と見えるのは、鉄格子と鉄網で仕切りが造られているからだろう。

 この部屋の一部を改造して、大きな動物用の部屋にしたのだろう。

 猫と犬、合わせて20匹ぐらい。

 餌場にトイレが複数置いてあるし、かなり衛生的に保たれている。

 今も、トイレをしたらすぐに取り替えに行った。……単にあの人が几帳面なだけかな?

 それでも綺麗なトイレであるのはいいことだ。

 だけれど、運動不足は間違いない。

 猫が登れそうなところもなければ、犬が走る場所もない。



 早く、ここから出さなくちゃ………!!!



 気持ちが先走りそうになり、僕は息を整える。

 そして、イヤホンマイクを3回叩いた。

 きっと井上さんにはゴソ、ゴソ、ゴソ、と聞こえたはず。

 この意味は、順調だ、ということ。


 兄は千葉先輩という人と何やら話し込んでいる。

 ……いや、一方的に話を聞いてる感じか。

 兄の根性がわかる。

 こんな部屋1分でも居たくない。ましてや動物を飼ったことがある人なら尚更。

 本当に『ただ検体を管理している』そんな雰囲気だし、あのくだらない話を延々と聞くという苦行。

 兄には頭が上がらないや。


 僕は中学生なので、キョロキョロしながら状況を確認していく。

 兄の説明があったとおり、しゃべる能力の高さでランク分けをしているのだろう。

 僕が檻に近づくと、茶色のトイプードルが鼻を鳴らして寄ってきた。


「……逃げる……ここ」


 僕は大きくうなずき、小声で「待ってて」そう言うと、トイプードルの目がまん丸になる。

 僕が人差し指を口に当てると、すぐにむっと口をつぐんだが、嬉しさが尻尾に出ている。はち切れんばかりの尻尾に僕は計画がバレないかとヒヤヒヤするが、千葉は気づいていないようだ。


「しかし、維に、もう1人弟がいたなんてな」


 その言葉に僕は驚きながら立ち上がり、頭を下げた。

 中学生らしく声を意識して、ガサガサ気味の声でボソボソと自己紹介。


「あ……オレ、マモルです」


「マモルっていうのか。マモルはどうしてここに興味が?」


「いや、しゃべるってキモいじゃないですか。それの原因ってやっぱ知りたいし、維兄ちゃんが知ってるっていうからついて来させてもらって……なんかわかったんスか、そういうの?」


「報道通り、隕石が原因。俺らは基本、集めた動物の語彙力の差を調べてる」


「Bってのは?」


「喋りが拙いやつだな」


「じゃ、Aがいいやつ?」


 僕が言うと、兄の先輩はニヤリと笑う。


「あとで見せてやるよ。めちゃくちゃしゃべるから」


 言っている通りで間違い無いようだ。

 兄と目配せするが、兄の視線を辿ると、この部屋の奥がAクラスの動物の部屋らしい。

 その扉のガラスに影がかかる。

 立て付けの悪い音を鳴らして開いた扉にいたのは、アイツだ。



 ───仰木靖!!!!



「よく来てくれたね。私は研究に興味のある子は、誰でも歓迎なんだよ」


 その彼の手には、亀がいる。


「こんににちは。ワタシはイシガメのカメと申します」


 カメさんは、カメって名前なんだな……

 そう思いつつも、僕はじっとカメを見つめる。



 こいつが、大ボス───!!!


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