第40話:いざ、研究所へ
プラカードを掲げる人たちの間を縫って、僕たちは大学の裏手へと到着した。
自転車は学校の中に停められるというので、僕たちは手押しで進んでいく。
正門から入れないため、裏口に回ったけれど、しっかりとそこには守衛さんがいる上に、入口付近は紐で囲われ、一定の空間が作れている。
ここをすり抜けていくのか。
嫌に目立つ……
数人の報道陣にマイクを向けられるが、絶対に目を合わせないように進み、それこそ中学生らしく、というより、もっとおどおどしながら、兄の後ろをついていく。
守衛さんの前まで歩くと、兄は首から下げたカードを掲げた。
それを見た守衛は頷いた。
もう顔見知りの雰囲気だ。
兄の段取りの力に驚いていると、守衛さんが僕に笑いかけてきた。
「中学生なのに、偉いな、君」
はにかんで首を傾げて僕は進む。
下手に喋ってバレたくない!
小さく会釈をして兄の横に近づいた僕に、
「うまいな、ごまかすの」
「兄さんほどでも。でも、意外と簡単だったね。荷物検査とかあるかと思った」
「学生は基本無害ってことでね」
「でもなんで兄さん、通行証みたいなカード持ってるの?」
「俺はここに認められた学生だからな!」
「天才は違うね」
「バカ。俺は秀才だ」
僕らは指定の自転車置き場に停めるのだが、なにせ初めてのことで、ドキドキが止まらない。
「ここの大学って、こんなに広いの……?」
雑木林が敷地内にあり、正直どこからどこまでがこの大学の敷地なのかわからない。
それぐらい広い大学なのだ。
ぐるりと見まわし、口が開いたままの僕に兄は笑う。
「ここの研究室は大学内の他にも別棟であるんだ。そのせいで広いらしい」
「さすが由緒正しい大学ってことなのかな」
「昔はこの辺り一体、野っ原だったし。どんどん広げてった結果だってさ」
「へぇ」
兄は慣れた足取りで研究所へと向かっていく。
『カケルッピ、大学に入った?』
井上さんの声に僕は驚きながら、小声で返事をした。
「うん。もうすぐ研究室」
その声に井上さんもなぜか小声で応援される。
『やっちゃえ、カケルッピ!』
僕は数回深い呼吸を繰り返す。
目の前には、研究室の扉があるからだ。
「いくぞ、駆」
「うん、大丈夫」
兄はドアベルを鳴らす。
聞き慣れたピンポンの音の後に、スピーカーから声がする。
『どちらさま?』
「あ、千葉先輩? 俺です、維です」
『あ、維か。入れよ。新しい検体が入ったんだ』
自動でドアの鍵が下される。
ゆっくりと開けたその部屋は、動物の泣き声で充満していた───





