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第4話:奇妙な共同生活

 ひとり、そわそわワクワクした気持ちで亀を飼うのに必要なものを書き出し、自分の部屋を中心にハチコたちが生活できるように足りないものを調べていく────


「家族に秘密で何かするって、ちょっとドキドキしちゃうよねぇ……」


 独り言を重ねながらスマホにメモをしていると、後ろが静かになったと気づく。

 振り返ると床でハチコとモップが丸くなり、そのとなりで亀もころんと転がっている。

 意外と仲良くできているようだ。


 下のリビングがバタバタとしはじめた。

 時計を見ると、母がパートに出る時間がもうすぐだとわかる。

 父も兄も出かけたあとなので、あとは母がいなくなれば自由に家を歩き回れる!


 LINEにメッセが届いた。



 菓子パン テーブルの上



 母だ。

 そのメッセの後に、ガタンと扉が閉じる音がして、母がパートへと出かけたようだ。

 それでも家に戻って来たらまずいと、じっと様子を伺うが、戻ってくる雰囲気はない。


「よし、ちょっと遅くなったけど、ハチコ、モップ、ご飯にしよう」


 僕が言うと2匹はぎゅいんと首をあげた。


「モップ、おなかすいたの」

「あたち、ごはん食べる!」


 カメも来たそうにはしていたが、階段なので遠慮するという。


「あ、葉野菜があれば。キャベツでもレタスでも……できたら、レタスが好みです」

「わかったよ。ご飯食べたら持ってくる。さ、ハチコとモップ、ご飯食べに下りよう」


 僕が言いながら扉を開けると、2匹で飛ぶように階段へ向かって走っていく。




 僕がカリカリのご飯を用意していると、待ちきれないという視線が手元に届く。

 器に盛りおえ、いつもの餌場へとそれを置いた、

 いつも通り僕はシリアル。牛乳を注ぎ、スプーンを取り上げ座ろうしたとき、ハチコが僕の前に立ちふさがった。


「おっ! 危ないよ、ハチコ。ご飯食べないの?」

「カケル、あたち、いっしょにご飯たべるの」

「……どうやって?」

「テーブルでしょ!」


 ハチコに怒られ調子で言われるが、人になったつもりなのかと僕は笑ってしまう。

 だがハチコに言われた通り、器を1つずつトレイに乗せてテーブルへと置き、僕のシリアルもトレイに乗せてテーブルへと置く。

 みんなお揃いのほうが家族感が増す気がして、それだけで特別な朝食に見えてくる。


「はい、いたただきます、なの!」


 ハチコの号令で、モップと僕も復唱した。


「「いただきます」」


 テーブルの上でガツガツと食べはじめた彼らを眺めながら、僕もシリアルを頬張る。

 猫がテーブルでご飯を食べるのは、行儀が悪いのかもしれない。

 だけど彼らなりに人らしく振舞っているんだと思うと、可愛くて仕方がない。

 ときおり顔を上げては、2匹でおいしいね、おいしいね、と餌を食べている。

 それを見るだけで、なんだかいつものシリアルが少し美味しく感じた。


 なにげに手元のリモコンでテレビをつけて見る。

 どのチャンネルも今日はしゃべる動物で持ちきり。

 どうやら動物園の猿や鳥も喋りだしたようだ。


「わぁ……大混乱……」


 僕がつぶやくと、ハチコは目を輝かせて「みんな、おはなち、ちたいんだ」そう言うので、ハチコも話がしたかったのかと笑ってしまう。

 だけど、2匹を眺めて思うのが、どうも知能レベルに即した考え方や、話し方になるみたいだ。

 カラスなんかは流暢によくしゃべっていたし、亀は亀だけど、ハチコとモップは幼児のような喋り方。

 テレビの中の猿は凄まじい罵詈雑言を繰り返している。


 どこで学んだんだろ……


「よし、ハチコ、モップ、ご飯食べたら、買い物に行こう。外出てみたくないか?」


「あたち、外でれるの?」


「モップも? モップも?」


「僕のリュックがあるから、それに入ればお前たちも外へ行けるよ」


「でもモップ、お外、こわい」


「モップ、こわくないよ? たのちいよ、お外」


「でも、こわい」


「あたち、ついてるから大丈夫なの!」


 2匹の会話を聞いて、僕は少し驚いたのと、やっぱり、という気持ちになった。

 ハチコは1年ほど野良生活をしていた。

 だから外のことをよく知っているし、少しでも外に出れたらとベランダに来る子だ。

 一方のモップはもらってきた家からうちの家の移動しか知らない、箱入り娘。

 唯一外を出たとしたら、ベランダと病院ぐらいだと思う。


「モップついてったら、いいことある?」


「好きなご飯、1個買ってあげる」


「モップも行くの!」


 現金なヤツだな。そう思っても、僕は嬉しくて仕方がなかった。

 この状況は確かに、気味が悪くて、どれも現実味がなくって、全く信じられない。


 だけど、いつも「にゃあ」と話しかけてくる2匹と話ができたらと思ってたまらなかった。



 それが今叶っている───



 スマホでツイッターを見ると、しゃべる動物に肯定的な人と、否定的な人がいるのがわかる。

 否定的な人は極端で、まさしく、何かの陰謀じゃないかという意見が渦巻いている。

 『宇宙からの侵略の合図だ!』とか『動物に支配される!』とかとか……

 やはり亀がキーマンなのは間違いないようで、亀が宇宙人の存在を伝える動画もある。


「これはうちの亀より理路整然と喋ってるな……」


 ハチコとモップに見せてみたけど、興味はないらしく、ご飯を食べ終わったのかソファへと移っていった。

 どうやらテレビを見るようだ。


 僕はさらにツイッターを辿り、肯定的な人の意見を眺めてみる。

 その中には『これが宇宙との初めての交信になる』と電波を出している人もいて、ちょっと面白い。

 もちろん、この時間を大切に過ごそうとしている人もいて、僕はできればそっち側にいたいと思う。


 思えば、この喋るのって、永遠に喋り続けるんだろうか……

 遺伝とかするの……?


 そう考えると、気になることがいくつも出てくる。


 疑問符を重ねながら部屋へと戻ると、足元に亀。

 一瞬固まったとき、彼は頭をもたげて言った。


「あの、私の葉野菜は……」


「ああ……!!! 今持ってくる!」



 とても不思議な共同生活が始まろうとしている。

 僕は疑問符を一度消し、とにかく『今』を解決することに決めたのだった────


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