第39話:ヒッチコック作戦、決行!
僕たちの準備は整った。
カンタ部隊は上空待機、僕と兄とカメさんが潜入部隊。井上さんは金川さんと合流し、車で待機となる───
「の前に、駆、変装しなきゃな」
真顔で兄が言うので、なんのことかと首をかしげると、僕のクローゼットを漁り出した。
井上さんがいる手前、そんなにおおっぴらに開けないでほしいっ!!!
「地味な色ばかりですね」
「カメさん、うるさいっ」
兄がごそりと取り出したのは、大きめのTシャツとカーゴパンツ、そしてキャップだ。
突き出された僕は渋々受け取り、ひとり部屋にこもると、もぞもぞと着替える。
のっそりとベランダに姿を出した僕を見て、みんながいっせいに吹き出した。
「カケルくん、白のハイソックスはないっ」
「駆、マジで似合うな!」
「やばいな、カケルっ」
「カケルさん、似合ってますよ」
僕自身わかっている。
大人が無理してコスプレした小学生だ。
僕はざっとカーテンを引き、着替え直してベランダに出ると、みんなの顔が素になっている。
「カケルくん、面白くない」
「さっきのでいいじゃん」
「まともになったな、カケル」
「カケルさん、似合ってますよ」
まじまじと全員の顔を眺め、僕は息をつく。
「なんで、普通のTシャツにジーンズでそんな顔されなきゃいけないんだよっ」
この発言に井上さんがため息だ。
「もういい。あたしがコーデするっ!」
そう言いながらクローゼットに手をつけた井上さんに僕はアワアワとするが、
「パンツ出てきたってなんとも思わないし。うち、弟いるし!」
「そういう問題じゃないってば!」
僕の制止の声は虚しく部屋にこだまする。
井上さんは僕の黒歴史を探しあててしまった。
彼女がむんずと掴んで差し出したのは………
「はい、これ着て!」
これは昔気の迷いで買ったTシャツ。
そう、黒歴史を具現化し暗黒のTシャツ!!!
黒いTシャツに白でよくわからない英語と羽がごちゃごちゃと書かれた、厨二病患者が好むデザインだ。
背中にデカデカと書かれた2枚の羽がもう、痛々しくてたまらない。
「なんで見つけるの……」
「これにジーンズとキャップかぶれば完成! ちょっぴり影あるくらいの方がいいよいいよー!」
僕はため息ごと受け取り、井上さんをベランダに押し出して、嫌々ながらようやく着替える。
再びベランダに出るとみんな納得の顔だ。
「ちょー痛そうな中学生だな、駆」
「うるさいよ、兄さん」
「似合ってる似合ってる!」
「……井上さん、言わないで」
「そういう中学生、よく見るぞ」
「えぐらないで、カンタ」
「似合ってますよ、カケルさん」
「カメさんはうわべだけだよね」
これにキャップを深くかぶって、黒いリュックを準備する。
リュックの中には、まずカメさんを。カメさんには保冷剤を渡せば問題ない。
そして、カメさんは嫌がっていたけど、最終兵器をカバンに詰める。
「では、準備ができたなら、決行なのです!!!」
リュックからひょっこり頭を出したカメさんの声を受けて、自転車にまたがった僕たちは走り出す。
井上さんはホームセンターへ。
僕たちは大学へ。
井上さんは10分程度。僕たちが向かう大学までは20分。どちらも大した距離じゃない。
ハチコやモップ、シロにハチミツのことを考えたら、これぐらいどってことない!
スマホにつなげたイヤホンから、井上さんの声がする。
『カケルくん、金川さんと合流した! 今、大学近くの公園に向かってる』
「僕たちは順調に進んでるよ」
自転車は順調だ。
ぬるい空気も自転車のおかげで涼しく感じる。
だが大学の近くに進むごとに、人が増える。
それこそ大学の100m前には、報道陣、動物を奪われた飼い主、そして、しゃべる動物反対派の人間たちであふれている───
『バードテイマーカケル! 行ってこいっ!』
「まかせろっ!」
───今を楽しむ邪魔をするのは、許さない!
だって僕は、バードテイマーだからねっ!





