第37話:秘密基地に全員集合!
一度、僕は空気を吸い込み、兄の言葉を頭のなかで繰り返す。
───が、やっぱりわからない。
「兄ちゃん、言ってる意味がわかんないんだけど」
「お前もマークされてるってこと」
「は?」
唐突な告白に僕は戸惑ってしまう。
「駆、赤いリュックに猫詰めて走ってるだろ?」
あまりの的確な言葉に言葉がなくなる。
「動物回収チームの中じゃ有名だぞ? バードテーマーがいるって」
「なにそれ」
「猛獣使いを文字ってるんだろ。とにかく、赤いリュックのお前はマークされてんだよ」
「よく兄ちゃんの弟ってバレてないね」
「たりまえだろ? おれはうまく立ち回ってんだよ」
「で、僕が3番目の弟ってどういう………」
「お前がバードテーマーだとバレるのはまずいから、中3の弟がいる設定にして、大学に潜入しようぜ」
「は?」
「とりあえず、おれが先輩方の目を引くから、お前がその間にハチコとモップを回収。完璧だろ?」
「いや、結構無理あると思う」
「お前が中学生らしく無邪気に檻のなかに入っていけば問題ねぇよ」
「………それこそ無理あるだろ」
僕が呆れて言うと、兄はがばりと立ち上がる。
「とにかく! 2人で行けば、ハチコとモップを回収するのは問題ねぇよ。他の動物の家族とかは絶対入れないようになってるけど、おれとお前なら入れる。こんなもん、入れたモン勝ちだろ。思い立ったら吉日、ほら行くぞっ!」
僕は兄の腕を思わずつかんだ。
「………それじゃダメだ」
僕の言葉に驚いたのか、兄はいぶかしげに見つめてくる。
「だって、みんな帰りたがってるんだろ? それに井上さんのハッチにシロも……」
「そんな頭数、さばけるわけないだろ」
兄は大げさにため息をついた。
すぐ即答した兄の頭の中には、これからのシミュレーションができあがっているのは間違いない。
さらにいえば、かなりの頭数が収容されてるのだろう。
だけど────
「……やらなきゃ。僕らの他に誰ができるの……?」
見上げた僕の目を兄は見据える。
僕にとって、これは絶対しなければならないこと。
最優先のこと。
どんなことよりも、これからどうなろうと、しなきゃいけない。
しゃべる動物を救う───!!
兄は僕の目をしばらく見たあと、再び大げさにため息をついた。
「お前って昔からそうだよな。こう決めたら、ゆずらねぇもん」
兄は再び座り直すが、睨むように言う。
「……じゃ、どうするんだよ?」
その顔に、僕は笑顔を向ける。
「まずは作戦会議だよ、兄ちゃん」
僕は鳴り止んだスマホを取り上げた。
数分前の僕じゃない。
何もかもに諦めた僕じゃない。
───立ち向かえる僕が、ここにいる。
自分の頬を叩いてから、僕は井上さんに通話を入れた。
すぐにつながった井上さんにこちらの現状を伝えると、さらに声を震わせるが、僕は努めてしっかりと言った。
「井上さん、秘密基地で作戦会議だ」
弱々しく沈んでいた彼女の声が、一気にハリのある声に変わる。
すぐ行く。の言葉通りに、ものの10分で到着した井上さんの目は、赤く腫れてはいるものの、強い意志が見える。
「ね、あたし、何をしたらいい?」
「焦ってはダメですよ、リンさん」
「カケル、みんなを救うんだろ?」
「ようやく、おれの頭脳が役立つときがきたな」
「……まずは僕たちの手駒を確認しよう」
この秘密基地が、基地となった瞬間だ。
そのメンバーは、僕に井上さん、そしてカメさん、イケボのカンタに、新入りの兄。
みんなを救出する作戦会議がこれから始まる───!





