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第31話:公園で作戦会議

 ──無我夢中!!


 この文字通りに、僕たちは必死に自転車をこいだ。

 カンタ隊長率いるカラス軍は僕たちの移動を確認し、すぐに解散。

 以降は、頭上での見張りをしてくれている。


 それでもあの場所から離れたかった。

 少しでも危険がない場所に行きたかった。


 必死に走り、到着したこの公園は、初めてハチコとモップと一緒に休憩したところ。

 公園奥の人通りの少ないベンチを見つけるも、辺りを再度確認して自転車を止める。


「ここなら休憩できるかな」


 井上さんの声に僕は頷く。井上さんが自転車を降りたと同時に、僕も自転車から降りた。

 鍵を閉めながらも、やっぱり周りの視線を確認してしまう。

 その姿にふたりで苦笑いだ。


「ここはランニングコースにもなってないから大丈夫そうだね」


 僕は言いながらハチコとモップ、そしてカメさんをリュックから出してやる。


「リュックのなか、暑すぎなの……」

「モップ、ゆれるの嫌い」


 ハチコとモップがへろへろと寝そべったので、すぐに保冷剤を頭に乗っけてやる。

 カメさんは保冷剤を抱えていたため、大丈夫だったようだ。


「僕、そこのコンビニでちょっと買ってくる。リンちゃんは?」

「ありがと。私はお茶がいい。あー……麦茶で!」

「あたいは、骨がいいわ」


 デコピンされるハチミツを見てから僕はコンビニへと向かった。

 猫や犬が飲める軟水と、カメさん用に氷、そして自分たち用のお茶と、なんとなくガリガリ君ソーダ味を2本買い、みんなの元へ戻った。


 リュックに詰めてあった紙皿に水を入れ、みんなに水を与え、カメさんに氷を渡し、僕たちはガリガリ君をしゃぶる。

 まだ残暑が厳しい日中、額からは汗が流れる。

 だけれど、木陰のせいか、背中が冷える。


 いや、さっきのせいかもしれない……


 この嫌な気持ちをどこかに閉じ込めたい!


 それが顔に出ていたようだ。


「カケルくん、眉間にしわよってる」


 じゃりじゃりと音がとなりから聞こえてくる。

 僕もじゃりじゃりと噛みくだき、冷たい氷の塊を飲み込んだ。


「あんなの、もうこりごりだね」

「うん」


「あたし、怖いな」


 この井上さんの言葉に、僕はどう返していいかわからない。

 僕も怖い。不安で仕方がない。

 だけど、それを声に出すと、何かが弱くなりそうで、僕は言えない。

 もう一度ガリガリ君を噛んだとき、脛にふわりとした感触がする。


「カケル、大丈夫なの」

「モップ、カケルといれば大丈夫!」


 僕は思わず2匹を抱き上げ、頬ずりをすると、


「汗臭いからやめて」


 思春期の娘のような扱いを受けた。ちょっとショックだ。


「そうだね、カケルッピなら、どうにかしてくれるかも!」

「あたいもそう思うわっ」


 そう言って笑う井上さんの笑顔にそれほど余裕はない。

 でも、ハチミツはその言葉を純粋に受け取っている。

 まじまじと見つめる僕への瞳が、安心感に包まれた目だ。


 だけど、僕はそこまでの力は、ない───


 目を伏せた僕の足元に、カメさんがいる。


「カケルさん」


 カメさんは僕の足をよじよじと登りだし、膝まで来るとはっきりと言った。


「作戦会議ですよ。どうみんなで乗り切るか、考えましょう」

「僕たちも隠れるしか方法が見つからないんだ。カメさんの知識ボックスではわからないの?」


 僕が尋ねると、さも案のあるような顔つきだが、顔つきだけのようだ。


「私たち動物に、人間に勝てるだけの知恵があると思ってるんですか?」

「こういうときだけ、動物面するのやめてくれる?」


 カメさんと地味なにらみ合いを続けていると、ガリガリ君で体が冷えたのか、足元にハチミツを寝そべらせ、膝の上にハチコとモップを乗せた井上さんが、「あ」という声と一緒に人差指を立てた。


「この喋れる期間って、まだラストの日は決まってないの?」


 確かに、乗り切らなければならない日数で対応もかわるかもしれない。

 僕もそれに耳を傾けると、カメさんの口がぱかりと開く。


「わかりません。わかってたらそんなに悩まないと思います」


 無責任な答えが返ってきた。


「こう、今月中とか、来月いっぱいとか、ざっくりでいいから、わからない?」


 僕がカメさんを揺すってみるも、


「私は伝達係ですから、無理です、知りませんって」


 短い手足をパタパタさせるだけ。

 どうしたらいいのかと、頭を抱えたとき、不意に声がかかった。



「……あら、松岡くんじゃない!」



 そう言うのは、あのシロというシーズーを飼っているおばあちゃん、風間さんだ!


「あなたたちは、まだ大丈夫なのね」



 そう言って目を潤ませた風間さんから、僕は衝撃的な話を聞いた。



「もう、シロはいないの」

 この言葉から始まったのは、紛れも無い現実で、そして、僕たちが回避しなければならない現実。



 それは昨日の午前10時ごろだという。

 雨もひどく、散歩に行くはやめ、広い庭で遊ばせていたという。

 庭のガゼボで遊ばせていたそうなのだが、それが道路に面した側だったのも原因だと言う。


 ようは、タレコミだ。


 チャイムと一緒に現れたのは、前にシロを奪おうとした黒づくめの青年と、警察だった。


「こちらのワンちゃんがしゃべっていると伺いまして」


 いきなりの訪問と不躾に言ってくる相手に、風間さんは懸命に反論したそうだ。


「それは勘違いではないのですか? うちにはいませんよ。ラジオやテレビを庭でも見るので、何かの勘違いじゃないでしょうか」


 だけど何をどう返事をしても、回収しなければならないを繰り返すばかり。

 しまいには、「隠してると、いいことありませんよ?」などと言う。


「最近は物騒で、このことが会社とかにクレームとして入ったケースもあります。かなりの損害が出たそうですよ」


 青年がつらりと言うので、


「これは脅しにならないんですか?」


 風間さんは警察にそう言った。

 だけれど、


「脅しと取られるとは心外です。こちらはご注意してるだけですので」


 警察は注意という。

 だけれどこれは脅迫であり、人の所有物を奪う行為はおかしい、弁護士を呼ぶと言ったところ、1枚の紙切れが渡されたという。


 それは国の方針だった。


 要約して言うと、『あなたの動物が何か強力なウイルスに罹っている可能性があるので、速やかに渡しなさい。渡さない場合、罰金または禁固の可能性がある』と言うものだった───


「おおごとにしたら、不利になるだけですって……

 確かに国の言っていることもわかるの。だけれど、それでも仲良く過ごしていたのに()()だなんて言葉で片付けて欲しくなかった。

 せめて、健康診断などの検診であれば問題なかったのに……

 現に獣医さんだって反対している先生もいっぱいいるのよ?」


 風間さんは、愛おしそうにハチミツの頭をゆっくりなでながら続ける。


「シロちゃんがね、自分で出てきたのよ。

 『婆さんにこれ以上迷惑かけられねぇ』って……

 だからあなたたち、しっかり守ってあげて。

 でも、私も手をこまねいているわけじゃないわ。できることはしていくつもり。

 まずはあの研究所に収容されているようだから、面会ができないか掛け合ってるの。

 私の周りにもたくさんいるの、連れて行かれてしまった人が。

 取り戻したいって人もたくさんいる。

 だから、何かあれば、頼ってちょうだい」


 肉厚のしわがれた手が小さくもしっかりと僕の手に名刺を押しつけていた。

重めの展開が続いてます…

が、タグには、ハッピーエンドの文字が!!!


ご安心を!

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