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第27話:5日目は雨

 起きたときにはもう、雨だった。

 びちゃびちゃと屋根を伝う音が聞こえる。意外と強いようだ。

 今日はモップに起こされる前に僕はカーテンを開けてやる。みんな眩しそうに目を細めて、もう一度丸くなり直した。

 雨の日の猫はお寝坊さんだ。


「雨の日は、みなさん、寝坊気味ですね」

「まあね。猫ってみんなそんな気がする。今、葉っぱ持ってくるね」

「ありがとうございます」


 僕は猫のご飯とシリアルを用意しに台所へと向かう。

 両親はすでに起きており、父はリビングでテレビを、母はせわしなく掃除機をかけている。


「おはよ」


 僕が声をかけると、父からは返事があったが、掃除機を止めていた母の耳には届かなかったのか、返事はなかった。

 レタスを1枚ちぎり、シリアルに牛乳をかける。

 朝のテレビは今日もしゃべる動物を特集しているようだ。


『わたくしたち亀は、人のフォローのために遣わされています。この実験も、大変貴重なデータとなるでしょう』


 僕は思わず固まった。

 あの仰木教授と亀がセットでテレビに出ていたからだ。


『この亀のおかげで、私は動物の行動データ、そして動物がしゃべる言語データを集められています。彼らが人の言葉に対して反応を示すのですが、そのタイミング、理解度、そして我々人が感じる反応も合わせて見ると、とても興味深く、面白いものです。まず彼らは』


「気持ち悪い」


 母が吐き捨てるように言った。


「駆、うちのが喋ったりしたらすぐ持っていくから」


 僕が答えるより先に父の口が開いた。


「母さん、確かに渡さなきゃいけない動物だけど、家族なんだからそんな言い方は……」


「あなた、これから維は京貴大学へ行くのよ? 仰木教授に恩を売るチャンスだし、だいたい、ペットが家族? 毛は落とすし、自分のトイレだって片付けられないのに。しかも2匹、2匹もいるのよ。それもこれも駆が勝手に拾ってきたりするから」


「ハチコはオレが拾ってきたんだけど」


 兄が食卓テーブルに座る。

 それに反射的に母が動き出す。

 甲斐甲斐しく食事を運びだすのだ。だが、兄の言葉に心底驚いているのが丸わかりだ。

 まるで兄のご機嫌をとるかのように笑って話しかけるが、いつもの通り、丸無視の兄がいる。

 僕はただ何気無くそれを横目で見ていると、


「いいから、駆は面倒を持ってこないで、ね。維はこれからが大事なんだから!」


 八つ当たりのような言葉に、思わず眉を顰める。

 それも気に食わなかったのか、母が睨んだ顔で僕を見た。


「ほんとにあんたは鈍臭いんだから。なんでいつまでもそんなところに突っ立ってるのよっ」


「母さん、やめないか」


 父が僕の前に立ちふさがる。

 僕は思わず、しまった、という顔になる。

 今までここまで言われる前に逃げていたのに。今日はミスった。


「なんなの、その顔! 駆、言いたいことあるなら言いなさいよっ」


「母さん、そんな言い方はないだろ」


「あなたは駆に優しすぎるのよ。だからこんなに反抗的で、何もできなくて、うじうじした子になるのよ」


 両親の怒鳴り声の隙間に、投下された爆弾。



「それ、母さんのことだろ」



 納豆をかき回していた兄が言う。

 ……いやぁ、そんな、迎撃望んでないんですけどぉ。



「ちょ……この私が、こんな子といっしょ……ちょっと、あなた、変なこと維に吹き込まないでよっ」


「なんで俺のせいになるんだ? 君は自分の定規が正しいと思いすぎてる」


「なんなのよ、その格好つけた言い方! 自分の定規? は? 私は自分の常識が正しいと思っています。これで間違ったことありませんしっ」


「すぐ感情的になる。そんな怒る話をしていたわけじゃないだろ?」


「みんなで寄ってたかって私が悪いとでも思ってんでしょ? 違う? こんなに母さん家のことしてるのに、なんでそんな扱いされなきゃいけないのよ?」




『動物と人間が家族? 友達? まさか。それは無理でしょう。家族として捉えていても、やはり動物です。しゃべることができたにしても、この生物としての差は埋めることはできないでしょうね』



 仰木教授の声がする。

 きっと母もそうだ。

 僕とは合わない()()なんだ。

 この差は、埋められないんだ────




「……上に行くね」


 僕はトレイにシリアルと、テーブルに転がっていた菓子パンを2個乗せ、居間を後にする。

 別に僕にかけられる声はなくて、ただ、僕がこの家族の元凶であることは間違いなくて、その空気が重すぎて、僕は窒息するんじゃないかと思った。


「……はぁ」


 部屋のドアに背をつけて、僕が息をする。

 ここの部屋だけだ。

 空気がいいのは。


「カケルさん、顔色悪いですが……」


「あ、朝ごはん食べれば、こんなの治るよ」


 カメさんにレタスを渡すと、もしゃりと食んで、首をかしげる。


「甘味がないですね〜」


 いつもと変わらないカメさんを見ると、なんでこんなに安心するんだろ。


「……僕は………」


 僕が膝を縮めて丸まった側へと、ハチコやモップが集まってくる。


「僕…みんなと……会えて、嬉しいんだ……」


 必死に言葉にしてみたけど、この言葉が合っているのかわからない。

 人のフリをして、すこし強気なことを言ってみたかったのかもしれない。



「寂しいって言ってもいいんですよ?」



 やっぱりカメさんには勝てないなって、歪んだ視界越しに僕は思った。


ちょっと家庭内のお話になって重めではありますが、次回はもっとほんわかストーリーになりますので!

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