第15話:起きたら、さっそく準備ですっ!
みんなで綿密、といえるかわからないけど、に計画を立てた僕らは、12時をまわったぐらいで解散となった。
意外と1日緊張してたのか、ベッドに潜るとぐっすりで、昨日よりもすぐに眠りについたと思う。
感覚的に、もう朝がきてる。
目覚ましは8時を教えてるよう……
でも僕は、まだ起きたくないっ!
頑なに目を瞑っていると、鼻をかじられた。
痛みに思わず起き上がると、ハチコが僕を見上げている。
「朝ごはんと、おそうじなの!」
……ハチコは予定に真面目な性格なのだと、改めて知った。
一応、母にはラインで午後から友人が来る旨のメッセを入れ、朝食の準備に取りかかる。
すでに母も誰もおらず、快適な我が家だ。
あいかわらずテーブルには菓子パンが1個。入れた連絡に、特に返信はない。
僕は冷蔵庫を開け、カメさん用の野菜を探し始めた。
昨日と同じくハチコとモップにはカリカリを、僕はシリアルで、カメさんには固形のご飯+キャベツとなった。
「今日のキャベツは甘みがあっていいですね」
「それはよかった」
「あたち、ご飯たべたら、そうじするの」
「モップも! モップも!」
「そうだね、ハチコとモップにはデスクの掃除、手伝ってもらおうかな」
「私はなにを?」
「カメさんは、甲羅を干しておいてもらおうかな」
「私、そんなに生臭くないですっ!」
昨日と同じようにみんなで並んでベランダでご飯を食べたあと、僕たちは部屋の掃除にとりかかる。
2匹は頼んだとおりにデスクの掃除だ。
カメさんは小さい体だが力があるようで、せっせとベランダの整理をしてくれている。
整理、といっても、クッションを並べたり、マットを引っ張ったり、というところだけど、実に頼もしい。
僕は床に広げた雑誌をのけて、掃除機を持ち込んだ。
「ハチコ、モップ、掃除機かけるよー」
一声かけてから、掃除機のスイッチをオンにする。
端から掃除機をかけていくのだが、なぜかうちの2匹は掃除機に怯えない。
普通なら尻尾をたぬきぐらいに大きく膨らますものだけど、ちょっと身を屈める程度で全然問題ない。
なので掃除機をかけながらでも、ハチコとモップはデスクの掃除に大忙しだ。
「モップ、ペン、片付けるの」
そう言いながらモップはペンにかじりついている……
「モップ、そのペン、歯型だらけなんだけど……」
「すごく、かみやすい」
「……そっか」
ハチコは小さな手と鼻で消しゴムを端によせたりと忙しそうだ。
「モップ、手伝うの」
「なぁに、ハチコ」
「モップ、ここにしっぽふるの! ブンブン!」
「こう?」
モップが大きな尻尾を左右に動かすと、デスクの埃がさらりとよけていく。
「モップ、上手なの!」
ハチコはモップの頭をべろりと舐めた。
モップはそれに喜び笑いながら、ハチコの顔をお返しに舐めている。
2匹で「にひひ」と笑ったあと、また2匹の掃除が始まる。
それほどの時間をかけずに僕たちの掃除は終わった。
デスクの上のノートやボールペンには小さな歯型が無数についていたけど、それはハチコとモップが一生懸命に片付けてくれた証拠だ。
あとで写真を撮っておこう。
「カケルさん、女性がたくさん載っている雑誌はベッドの下ですか?」
「……そういう知識まで宇宙人は持ってるわけ?」
「みたいですね」
「そ。僕は部屋に持ち込まない主義だ」
「じゃ、ネットのログはしっかり消しておいてくださいね」
「消去済み!」
時刻は11時半を過ぎたぐらい。
スマホがふるえた。
ラインにメッセが入ってる。
見ると、井上さんからだ。
『お昼はなにたべてる?
おにぎり、持っていこうか?』
可愛いスタンプと一緒に送られたメッセは僕に衝撃的で、言葉が消えてしまう。
膝上に乗ったカメさんがスマホを覗き込み、小さな手でフリックを使いこなしている。
『本当に? もういつ来ても大丈夫。おにぎり、楽しみにしてるね』
「送信、ですっ」
カメさんの小さな手が紙飛行機の絵を押した。
「……って、何しちゃったの!? これ、消す!? え??」
「菓子パンはカンタさんが食べるから大丈夫ですし、今から来てもらって、ご飯たべながらゆっくり勉強会でいいでしょう」
ハチコとモップは今から来るとはしゃいでいるし……
僕が盛大なため息をつくと、カメさんが返事のようにため息をついた。
「なんだよ、カメさん」
「カケルさん、女の子がこれほどしてくれてるんですよ?」
カメさんがスマホをつつく。
井上さんだ。
『30分後には家の前だとおもう。ハチミツもいっしょにおじゃましまーす』
戸惑う僕にカメさんは笑う。
「ほら、わかったよ、気をつけてね、って打ってください」
戸惑いながら文字を打ちこむ僕の肩にカンタがとまった。
「お、作戦決行か! ちゃんと、水浴びしてきたら任せろっ」
耳元のイケボも、足元の亀も、ベランダに転がる猫も、今はどうしてか僕にとって最大の敵に見えてくる……
────そう思っていた僕は、とっても平和だったんだ。
僕の本当の敵は、すぐそばまで迫っていた……