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第10話:慌ただしい青春準備

 僕はスマホを手にもち、井上さんの言葉を繰り返す。


『明日バイト休みだから、遊ばない?』


 既読にしたまま放置するわけにもいなかいけれど、どう答えたらいいんだ……?!


「お、カケルにも春がきたか」


 耳元でイケボが響く。


「ちょ、カンタ、重いって。いやぁ、カメさん、すごいね……」


「私だって伊達に伝達係になったわけじゃありませんからね」


 ふんと小さい鼻を吹かすカメさんの頭をちょんと撫でて、僕は再びスマホを眺めた。


「……とりあえず、これはスクショ撮っておいて……」


「カケル、たのちそう」

 そう言って、ハチコは体をこすりつけて隣で寝転がる。モップもハチコにならってか、同じように体をこすり、ハチコの隣に寝転がった。


「モップ、お昼寝好き。カケル、もすうぐお昼寝の時間」


 言われて時刻を見ると、なんだかんだともうすぐ2時だ。


「お昼寝の時間だけど……その前に返信しなきゃな……なんて返そう……」



 そんな僕がカンタと一緒に考えた文面はこちら!



『明日? いいぜ! 明日は暇だから遊んでやるよ!』



 これをカンタが言うと、マジ痺れるフレーズ!!!………なんだけど……



「カケルさん、暑さで頭がやられましたか?」



 亀の真顔って、こんな顔なんだな……


「……あ、いや、僕もこれは攻めすぎだとは思ってて」


「なに言ってんだよ、カケル。男はな、魅せるときは、どーんと! だぞ!」


「はぁ……あなたたちは女心をわかってませんね……」


 そのときスマホが震えた。

 見ると、井上さんからのラインだ。


『私、飼い犬のハチミツ連れてくから、ハチコちゃんとモップちゃんも連れてきて! あ、できたら亀も』


「……ですよねー」


 なんだろうこの脱力感……

 ふたりきり、なんてあるわけないじゃん……ははは……


「カケル、死んだ目だ」


「カンタ、声に出して言わないで」


「落ち込んでいても仕方がありません。返信ですよ、カケルさん」


「はい……」


 僕はカメさんに言われた通りに返信を書き出した。


『明日、僕は大丈夫。何時がいいかな? もちろん、ハチコとモップとカメさんも連れていくよ』


 それを送信すると、すぐに返信が来る。


『本当に? ハチミツの散歩のあとに合流とかどう?』

『11時とか、早い? いつも休む公園あるから、場所送っとく』

『バイト上がったらまた連絡するー』


 僕は汗ばむ手で僕は文字を打ち込んだ。


『ありがと。じゃ、連絡待ってるね』



「……だぁぁはぁぁぁー!!!!」



 どうも僕は呼吸を忘れていたようだ。

 手は震えているし、汗も暑さだけじゃない気がする。


「あとは井上さんからの連絡待ちです。よかったですね、カケルさん」


「うん。カメさんがいてよかったよ」


 僕が笑顔でありがとうと言うと、照れた風に顔を揺らし、せっせとハシゴを登っていく。


「今日は少し暑いですね。水が気持ちいいです」


 泳ごうとするカメさんだが、僕が用意した水槽はやっぱり少し手狭なようだ。


「狭くてごめんね、カメさん」


「いえ、この狭いベランダではこれが精一杯でしょう。秘密基地ですし、我慢しますよ」


 どこかひと言多いのが難点だけど、やはり宇宙の使者はこれぐらい口達者じゃなくちゃダメなんだろうな。

 僕はカメさんの泳ぎをぼーっと見ていると、ハチコが鉄の扉の前に立った。


「ねーねー、カケル、このドアの奥ってどこー?」


 僕が今まであってもないものと見てきた鉄扉だ───


 僕はハチコを抱き上げ、


「ここの奥は兄のベランダに続いてる。だけど、ここは開かずの扉なんだ」


 扉を見ながら言った。

 すると足元にふわりと触るものがある。

 モップだ。


「タモツのベランダ、広い?」


 僕はモップも抱え上げて、首を横に振った。


「僕の部屋も兄の部屋も同じ大きさ。ベランダも同じ大きさだよ」


「ここ全部ならいいのに!」

「モップ、全部がいい!」


「そうだね、全部なら広くていいね。

 ……うん、兄がこの扉を開けてくれたらいいね……」


「カケル、タモツに今度たのむの」


 ハチコのあまりの必死な声に押されて、「わかったよ」そう返事をしたものの、僕が兄に頼み事なんてできないことはわかりきっている。

 心のなかで僕はごめんと謝った。


「さぁ、カケルさん、明日のデートプランを考えましょう」


 カメさんからの提案に僕が返事をすると、ハチコとモップも明日のお出かけに前のめりだ。


「ハチコね、ボールで遊ぶ」

「モップも! モップも!」

「それよりも、公園までのルートが肝心ですよ、カケルさん」

「ルートなんかより、食いもんのこと考えたらどうだ、カケル」


 てんでバラバラな動物たちだけど、僕のために知恵を出しているのだと思うと不思議でならない。

 本当に奇妙な関係で、大好きな仲間たちだ。


「僕は、ルートや食べ物なんかより、しゃべる話題を考えたい!」


 僕の言葉に賛同したのか、みんなで女子とのトークについて煮詰めていく……


 僕の青春準備は、抜かりないぞ!!!


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