奴隷王と妹
絵本風な歴史の教科書をイメージして書いたオリジナル物です。
文才がないので楽しめるかもわからず、決してすっきりするような終わり方ではありません。
数分を無駄にしてもよいという方は暇つぶしにでも…
とある王国に奴隷王と呼ばれる国の中枢を担うほどの大貴族がいました。
奴隷王は王国中の奴隷市場を管理しているといわれるほどに広く深く関わっており、また王家を凌ぐほどの財力をもっているため貴族たちに味方が多く断罪することはできませんでした。
奴隷王には二人の息子がおり、ゆくゆくはどちらかに奴隷業を継がせるための教育を施そうと考えておりました。
ある日奴隷王の上の息子、『兄』が奴隷王に妹が欲しいと願いました。
奴隷王は息子に奴隷を使わせるよい機会だと思い、兄を連れて奴隷市場に向かいました。
奴隷王は兄にこの中から好きなのを選べと言い、兄に檻の中にいる奴隷を見せました。
奴隷たちは皆瞳に暗い色を宿し、生気が感じられませんでした。
兄は、妹はとても可愛いものだと聞いていたので、暗い瞳の者たちが恐ろしく妹だとは思えませんでしたが、一人一人見て回りました。
兄ではないどこかを虚ろにみている奴隷たち、その中に一人だけ兄の目を見返すものがおり、その鮮やかな赤い瞳を欲しいと思い『妹』にすることを決めました。
兄は連れて帰った妹を大層可愛がりました。
一緒の風呂に入り妹の体を綺麗に洗い、同じ卓で一緒に食事をとり、同じベッドでともに就寝しました。
勉強の時間になると妹も隣で同じ勉強をさせ、妹が判らなかったことは先生に自分がわかるまで説明させ、そのあとに妹にわかるまで教えました。
自身の誕生日プレゼントは妹の服やアクセサリーを強請るほどの入れ込みようでした。
奴隷王はそのうち飽きて存在に扱うようになるだろうと放置し、使用人たちは奴隷が自分たちよりも裕福な暮らしをしている妹が気に入らず、兄の目に入らないところで妹に辛く当たっていました。
ある日兄が妹に何か欲しいものはないかと尋ねると、自分だけ服や食事が満足に与えられることが心苦しいと言いました。
兄は妹を笑顔にしたくて、奴隷王に奴隷市場の管理を教えてほしいと頼み込み、本格的に奴隷業を教わることになりました。
何故奴隷たちが満足に食事もできず、風呂にも入れないのかを聞くと儲けが減るからだと教わり、何故奴隷の値段に違いがあるのかを聞くと、出来ることが違うからだと教わりました。
奴隷たちは基本的に檻の中で死なない程度に管理されている程度であり、奴隷になる前の技能や知識しかありません。
そのために子供や老人、けが人や技術のない者は安く、力のある者や技術のある者は高くやり取りされました。
兄は妹に喜んで貰いたくて必死に考え、奴隷たちが技術を持てば儲けが出ると思いました。
そのことを奴隷王に話すと儲けが出るまでに雇う教師の値段をどうやって回収するのかと一蹴され、そんなことを考える暇があるならもっと勉強しろと叱られました。
兄は妹の願いを叶えられないことに悲しくなりましたが、仕方なく勉強をすることにしました。
勉強をしているときに、教師は自分より遥かに年上で、時には自分よりも運動ができそうにもない老人がいることに気付きました。
そこで、老人に何故自分よりも動けそうにないのに教師ができるのかと聞くと、知識は老いでなくなることはなく、永い年を生きることで増えていくと教わりました。
兄は今まで安くやり取りされていたけが人や老人でも人に教えることはできるのではないかと思いつき、奴隷業の勉強中に市場の奴隷たちに話を聞いてみたところ、同じ奴隷でも一人一人知識量が違うこと、けが人にはけがをする前にそこそこの技術を持っていた者が多いことを知りました。
しかし一度提案を断られたことがあったために、今意見しても難しいと思い、自身が完全に奴隷業を引き継ぐまで奴隷王には話さず、妹と話をするのみに抑えました。
それから成人に近づくにつれ奴隷王から領地管理や奴隷業を少しづつ引き継ぐようになり、奴隷業がよくないことであると気づきましたが、もう自身がどっぷり奴隷業務に携わっていること、家がほぼ奴隷業務と奴隷たちで成り立っているため、引き返すことが出来ずせめて弟が奴隷業に係ることがないように励むようになりました。
妹は目を離すことのできないほどに美しく成長し、兄のいないところで使用人や弟に迫られるようになり、今まで以上に兄から離れなくなりましたが兄は妹が甘えてきてくれると勘違いしていました。
妹には奴隷業がよくないと気づく前に色々と教えてしまったため、自身の手伝いをしてもらうことにし、少しずつ奴隷たちの環境を整えていきました。
まず、老人やけが人たちをできるだけ安く買いたたき、子供に教育をさせました。
また、妹にも奴隷たちに教育をしてもらうように頼み、安く買いたたくことと、奴隷たちの身なりを整えることで少しでも高く売り飛ばし、その差分の利益で奴隷王をごまかし、前年までの収入を維持していきました。
次に積極的に勉強をしてもらうために、定期的に知識や技術を試す機会を作り、より上位の者には他の者より良い食事という褒美を与えることにしました。
そうして高い技術や知識を持った者を高く売ることで、自分たちのところの奴隷は高いが質が良いとだんだん世間に思われるようになりました。
奴隷王は自分の奴隷が褒められることに気分を良くし、完全に奴隷業を兄に引き継ぐことにしました。
こうして兄はついに妹の願いを叶えることが出来、喜び一層奴隷業に精を出し世間に新しい奴隷王、奴隷王の扱う奴隷は高級奴隷であると認知されるようになりました。
ある時、隣の国が戦争を仕掛けてきました。
その国の王は血のように赤い目をしており、どこからか赤い目の娘が奴隷にされているという噂を聞きつけて確かめるために軍を率いていました。
王国の貴族たちのほとんどは自分の身を守るために領軍を屋敷の周りに配置し、戦争の前線には領民や奴隷を並べ戦わせました。
奴隷は喜んで敵軍の前に身を差し出し、無抵抗で殺されていきました。
民は死にたくないと精一杯の抵抗を示しましたが、装備を与えられずに兵士たちにかなうはずもなくその身を散らしました。
奴隷王は妹が敵に襲われることがないように、自ら奴隷を率いて敵対することを選びました。
奴隷たちは奴隷王の妹のおかげで他の奴隷とは違った生活を送れていることを、奴隷王から日々教えられており、妹を守るために必死に戦い領地に敵を入れませんでした。
王国は戦争に負け、噂となった赤い目の娘を連れてくるように言われましたが、誰のことかわからず動けませんでした。
赤い目の王は奴隷に携わっているもの全員をこの場に連れてくるように言い、何人かに赤い目の娘のことを聞くと、奴隷王ならばわかるはずと口を揃えて言いました。
そうして連れてこられた奴隷王とその家族そして妹を見た赤い目の王は、私の娘を奴隷として扱った罪をどう償うのかと問いかけました。
奴隷王の家族は皆自分は関係がない、全て奴隷王の独断だと喚きますが、奴隷王は口を開きません。
赤い目の王は奴隷王の家族を黙らせると奴隷王に同じ問いを繰り返します。
奴隷王はあなたの娘など知らない、ここにいるのは私の妹だと言いました。
そのやり取りを聞いていた妹は赤い目の王に一つの願いを言いました。
『王よ、私をあなた様の娘であるというのであれば一つ願いをお聞きください。私を見て、王の娘としてふさわしく思うのであればこの者の処罰は私に決めさせて頂きたい。もしふさわしくないと思うならば、この場で一思いにこの首を落としていただきたい。』
こうしてかつての王国は隣の国に併合され、その領地は赤い目の王の子が納めることになりました。
領主は奴隷を禁じ、民に教育を施し、領内を繁栄させました。
そんな優れた領主にはいくつもの相反する記述があり、どれが正しいのか歴史家が日々研究しています。
例えば…領主は男であるというもの、いいや女であるというものだったり、結婚したというもの、生涯独身を貫いたというもの…