補足 上
「……素敵な薔薇ね。貴女の趣味?」
「いいえ。これはお母様と妹の趣味です。私はどちらかと言うとたんぽぽや菫みたいな野原に咲いている様な花が好きですので」
「そう。悪役令嬢=薔薇みたいなイメージがあったから」
ザツロフ公爵家自慢の庭園に二人は対峙する。
「……やっぱり貴女も転生者ね」
「そうじゃあ無ければ私がこんな風に成っている訳ないでしょう?」
レベッカが記憶していたヒロインの容姿はベリーショートの可愛らしい容姿だった。
しかし今のヒロイン、ジュリアは赤い髪を肩まで伸ばし、可愛らしい顔立ちはそのままだが凛々しい目付きで良く見れば薄っすら傷跡が残っている。
冒険者らしい服装を着ていれば『乙女ゲームのヒロイン』ではなく『RPGの主要キャラ』としか言いようがない。
「どうして学園に来なかったのです? ヒロインの貴女ならもしかすれば私からチャールズを奪う事が出来た筈?」
「簡単よ。私がヒロインだから」
言っている言葉が分からなかったのかレベッカは頭を傾げた。
「記憶を思い出す前の私は家族に扱き使われていたわ。あの人達には悪気はなかったかもしれないけど、しっかり者だった私に甘えてばかりで。
『私はこのまま家族に利用されるだけの人生を送るのだろうか? 早くお金持ちと結婚して家族を楽にしてあげて解放されたい』と思ったの。あのゲームのヒロインが今の私と同じだったかは分からないわ。だけどその時の私はそんな事を考えていた。
学園の特別入学が許可された時、『玉の輿狙うぞ!!』と燃え上がったわ。
だけど入学前日私は前世を思い出した。
この世界が乙女ゲームの世界だけではなく、この世界は魔法や冒険者、妖精やエルフやドワーフの亜人、神様も存在する事を。
『この世界が私の為にあるのなら、家族を捨てても一人で生きていけるのでは?』
そう思ったら居てもも立っても居られなくなって、家族には書置きだけ残して夜中家を飛び出した。
だけどそう世界は私に優しくない。夜中で子供一人いたら人攫いに狙わるのは当然。
だけど偶々その場を通っていた通り名を持つ有名な魔術師に助けられた。
その人に事情を話して弟子入りさせて貰った。そしたら私は普通の魔術師なら一生扱える事が出来ない高度な魔法を十五歳でマスターしたの。ヒロイン補正ヤバ過ぎ……とあの時は思ったわ」
可笑しそうに笑うジュリア。成程、あのゲームは主人公であるジュリアがいるからこそ成立している。例えジュリアが学園に入学せずともジュリアに有利に成る様に世界が改変している様だ。
……ジュリアが悪役令嬢物の頭が悪いヒロインじゃあなくて良かった。