起
レベッカ・ザズロフは転生者である。
前世を思い出して直ぐに、自分はとある乙女ゲームの悪役令嬢の立場だと気付く。レベッカは何とか断罪される未来を変えようと奮闘した。
レベッカの婚約者はこの国の第七王子であるチャールズ。勿論攻略キャラでもある。
チャールズに婚約破棄されない為、婚約した時からレベッカはチャールズとデートをしたり、プレゼントしたり、お互いの話をしたりと仲を深める努力をした。
その結果なのかチャールズはレベッカを溺愛した。周りが引く位溺愛した。レベッカも半分呆れるレベルで溺愛した。
そんな状態で乙女ゲームの舞台である学園の初等部に(攻略キャラの一人に初等部で知り合ったキャラがいたからだ)入学したのだが……
ヒロインがいなかった。
三ヵ月待った。何らかの事情で入学が遅れたと思ったが、三ヶ月待ってもヒロインであるジュリア・アバーズは入学しなかった。
これは可笑しいと思ったレベッカは秘密裏に信頼できる侍女に彼女について調べさせた。侍女は何の接点もない平民の娘の事を何故調べるかと聞かれたが、咄嗟に「『入学前に推薦を貰って入学する平民がいる』と言う噂を聞いてそれに該当する子がいないから気になった」と答えた。
チャールズからその話をしていたのを侍女が近くで聞いていたから直ぐに納得してくれた。
その後、侍女の調査結果を聞いてレベッカは淑女として恥じるべきだが、終始口をあんぐりと開けていた。
元々ジュリアは十人兄弟の一番上のとして生まれた。彼女は弟・妹達の世話しながら、両親と一緒に農作業の手伝いをするなど、世話焼きな優しい責任感の強い少女だった。
家族がどんな我が侭を言っても嫌な顔一つしなかったジュリアに、家族は甘える様になった。
家事もジュリアに任せる様に成り、幼い兄弟達の世話は流石に両親がしたが、それより上の兄弟(ほとんど全員)の世話を任せる様になった。この弟妹達が生意気盛りで姉に我が侭を言って困らせていた。
そのせいでジュリアが同年代の友達と遊べなくなり、流石に両親に文句を言ったが『お姉ちゃん何だから我慢しなさい』と言って取り合わなかった。
長年我慢し続けたジュリアは入学前日に姿を消した。
『私は自由だ!!!!』
食卓の上に書き殴った手紙を残して。
家族は大慌てで役人に捜索願を出し、村人総出で探した。しかし幼いジュリアはまるで煙の様に影も形も見つからなかった。
後にジュリアに甘えてばかりな状況を両親の親・兄弟・親戚にバレ、しこたま怒られた。どれ程自分達が彼女に辛い思いをさせたのか、どれ程ジュリアに我慢を強いれ続けたか。
周りから言われてやっと家族は自分の愚かさに気付いたのだ。
後悔しても後の祭り。
家族はまだ乳飲み子や幼児であった下の弟妹達を除き、全員祖父母達にビシバシと鍛えられた。
近所の人達も事情を聞いて厳しく家族達を家事や農業を指導した。特に家事はかなりジュリアに頼っていた様で、母親でさえかなり手間取っていた。コレに関してご近所の奥様から母親は『まだ小さい子供に家事を任せっきりとかありえない!?』とかなり叱られたそうだ。
家族達はジュリアに謝罪する為に、時間があれば探し回っているが未だ手掛かり一つも無いらしい。学園の方にも尋ねたみたいだが、勿論彼女は学園に居らずそれから一度も来ていないそうだ。
そう言えば。レベッカはふと思い出した。
ヒロインが入学を決めた切っ掛けは家族を少しでも楽になって欲しかったからで、その気持ちがないのならこの学園に入る理由もない。
これで断罪イベントがなくなったが、他の転生者がヒロインの代わりになる可能性がある為気が抜けない。レベッカは乙女ゲームの期間である三年間気を緩めず、ザズロフ家の名に恥じない様な達振る舞いをした。
……そのお陰なのか、学園を卒業する時は庶民貴族関係なく女子生徒からは憧れられる様になり、かなり良い所から求愛される様になった。
だが、レベッカはチャールズの事を心から愛していたし、幾ら王位継承権から遠い存在とは言え王妃を母に持つチャールズに不満など無い。そもそも娘ばかりのザズロフ家は長女であるレベッカが婿を取るのは確定なので、夫になる人は長男以外の出来れば内政がキチンと出来る人が良い。その条件がピッタリ合ったのがチャールズなので、『こんな優良物件を捨てるなんて誰がいる!?』と思いながら男達の縁談を断り続けた。その姿にチャールズだけではなく、周りも感激した。
いつの間にかレベッカの事を『聖女』と呼ぶ様になった。