第一話 とんでも魔神召喚
最近思いついた話を書いてみました。R15指定です。
暑かった夏も終わり、いつの間にか枯葉が顔に掛かる季節になっていた。
部活も引退し、進む高校も決まっている。
何となく他にやりたい事もあったが、今日まである計画を練っていた俺は、いつもと変わらぬ平和な日常を過ごし、明日からはもっと幸せになっているはずだと……期待をしていた。
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俺の住むこの街は多くの自然につつまれていて、活気もそこそこにあり住みやすく良い所だ。短時間のバスで都心部にも行けるし、少し頑張れば自転車で山にも行ける。
そして今日も、いつも通りの平和な日常がある……。
この街唯一の小さな山の麓には、立派な木々に囲まれた中学校がある。
グラウンドはしっかりとした良い土で、十分な広さがあり整備も隅々まで行き届いている。体育館も大きく立派で、運動部はどれも全国大会に行くレベルだ。
田舎特有の広い体育館やグラウンド、それでいて他校が田舎や都会からも頻繁に練習試合に来るのだから、強くなるのは当然だろう。
現在は午後最後の授業の真っ最中だ、そのため校舎内は静かだが、グラウンドからは体育の授業を受ける生徒達の気配がある。
校舎の三階にある今俺のいる教室では、若くて美人の先生の授業が行われており、普段だらけたり寝ている生徒達はわりと熱心に授業を受けていた。
ただ俺はというと……、窓際の席からぼ~っと外を眺め、そして深~くため息を漏らしていた。
視線の先には広いグラウンド、そこでは熱血で有名なイケメン先生と、洗脳されているかの様に目を輝かせている生徒達が、授業でカバディをしている様子が見える、ちなみにその動きは先生も生徒も素人のものではない。
そういやこの前、俺はあの先生の授業でクリケットをやったなー、色黒だし実はインド人なのかもな~。
それはさておき、眼下に広がる光景は実に見ごたえのある内容なのだろうけど、残念なことに俺はイケメン先生やカバディに興味があるわけではない、今教室で受けている授業に興味が無いのもそうだが、ただ何となく外を眺めながら、今日これから起こるイベントの思いに耽っていたのだ……。
「……ふぅ……」
結局俺は授業が終わるまで外を眺めていた。
終わりのチャイムで我に帰り、同時に前の席の友人が声をかけてきた。
「のっすー、今日暇なら俺んちでいつもの面々集めてテーブルトークしないか?」
マニアックなやつだがこれがなかなか面白い。
「あ~、今日は5時位から大事な用事があるからまた今度な~」
「5時かー、しゃーない、じゃまた今度な」
「ああ、時間があったらな」
そう言って俺は机の上を片付けると、待ってましたとばかりに「よし!」と気合を入れ、急いで帰宅の準備をする。
学校を出ると少し日が落ち始めた夕空が広がり、秋っぽいいやらしい風が足下の枯葉を飛ばしていた。
しかし、寒かろうが紅葉が綺麗だろうが今の俺は気にも止めぬ、それは急いで帰宅する理由があるからだ。
「遊んでなんていらんねー、早めに帰って準備しなくちゃな!」
俺は今、ついつい独り言をしてしまうほどのドキドキと緊張に包まれている。
そう……今日はテーブルトークとかそんな謎の儀式みたいな遊びをしている場合ではない。
これから俺には、“人生が変わるかもしれない重要なイベントが待っているのだ”。
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俺の名前は三神才之巣(みかみさいのす)。
変わった名前だが、自己紹介の時は「かっけぇ名前だろ?」と、自分から晒していくスタイルだ。
父ちゃんと母ちゃんが若くして結婚し(でき婚)、俺を見た二人が不思議と30秒とかけずにつけてくれた名だそうだ。
周りはその名を聞くとピクッと気まずそうな顔をするが、俺はそんなに気にはしない、むしろそんな時はこちらから「俺は気に入っている!」と言って、その話題を斬る。
幼い頃は田舎に住み、山と川で遊んで育った田舎者だが、今は都会に憧れていた両親と共に、この街に住んでいる中学三年生。
両親はまだ若く、二人共明るい性格で、一つ下には弟(変態)がおり、ペットの猫(ちび)と合わせて4人と1匹家族だ。
そして、なんといってもこの近所には、引っ越して来た日に出会った、超カワイイ同級生の女の子が住んでいる。
お互い同じ高校に通う予定でもあるのだが……、この事こそが、最近俺の心の中で大きな問題になっていた。
「このまま高校に通うことになれば、可愛い彼女には絶対に悪い虫がつく、俺の存在も薄くなっていってしまうだろう」
彼女は超が付く程のお嬢様だが、それを気にせず誰とでも仲が良く友達が多い、俺とはご近所さんとはいえ特別な関係じゃあない。
5年以上の付き合いがあるし、お互い家に何度も遊びに行っている仲ではある、友人以上だとは思っているけど……。
なんとか卒業までに……、もう少し仲良くなれるイベントがないかなーと、常に考える毎日を過ごしていたわけだ。
家のちびが、仔猫を2匹産んだその時までは。
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学校から急いで帰宅した俺は、ちらっと弟の靴がない事を確認し、居間の隅にある猫ハウスへ向かい中を覗き込む。
「みぃ~……」「みぃぃ」
「ああ、癒される……」
このままずっと見ていたい…が、今から来客の準備をしないといけない。
いそいそと2階の自分の部屋に行き、いつものパーカーとゆったり目のズボンに着替えた。
着替えの最中に玄関の開く音がしたので、弟が帰ってきたのだろう。
「今日は帰ってくるの早いな……部活休みか?」
奴には邪魔されたくない、こんな時は下手な嘘は言わず、事情を話して部屋にいてもらおう。
これで完璧だ。
今両親は旅行中で、帰りの予定は明日の夜、厄介なのは予測のできない弟のみ。
軽く掃除をしながらそんな事を考えて、また1階の猫ハウスに向かう。
俺は本気で今日という日を待ちに待っていた。
先日家で生まれた仔猫を、ネコ好きでもある近所の同級生、“立花紫織(タチバナシオリ)”ちゃんに会わせる約束をした日なのだ。
彼女が来るのは夕方の5時くらいの予定だが、部活もないし早く猫と会いたがっていたから30分前に来てもおかしくはない。
学校でも有名なお嬢様である紫織ちゃんは、大の猫好きであり、彼女も屋敷に猫を飼っている。
立派な白黒のオスでランスロットという名だ、彼女は「ランスゥ」と呼んでいる。
家のちびとも仲が良いので……、この仔猫の父親なんだと思う……が許す!
ちびは仔猫の時に実家の田舎からもらってきたキジトラの雌猫で、妊娠が分かったのは、大分この家にも慣れてきた頃、まだ若いちびに避妊手術をするかどうか考え出した頃の事だった。
紫織ちゃんは、ちびが我が家に来た日からその存在を知っているし、普段遊びに来た時や、その辺を散歩しているちびも頻繁に見ているので、当然ちびの妊娠も知っている。
そして当然の様に、生まれたら見せてと何度も言われているのだ。
なので、学校でも堂々と猫が産まれた事を彼女に報告し、その場でいつ来るかの約束までした。
「ふぅ……」
今日は心に決めていることがある。
ただ彼女に猫を見せて遊ぶのではない、彼女ともっと仲良くなるための、大事なイベントにする計画なのだ。
彼女が猫に夢中の時は、周りからの問には何でも「うんうん」と空返事をするだろう、それを利用してちょっと大胆な事を言おうと思っているのだ。
告白……なんだろうな~位の。
俺は目の前の猫ハウスを覗きながら、不気味にニヤニヤしている。
いや、ズバッと言えそうなら言っちゃうよ、でもそれはもっと特別な時に言いたひ。
俺の気持ちには彼女も薄々気づいているはずだ、それでも積極的に笑顔で相手をしてくれる。
嫌われてはいないはず……。
……やめよう、またこんな期待と不安の繰り返しだ、高校に入る前にと決めたじゃないか。
これを機に……手と手で触れ合い、握りしめ、じっと見つめ合う関係になる予定なのだ!!……フフ、ぐふふ……。
さて、彼女が家に来る前にもう少し作戦の復習をしておこうかな、……ドキドキ。
まだ目も開かず、手のひらの上で震えながら辺りを探る仔猫をつつきながら考える……。
…………にゃぉ~(鳴きマネ)……にぃゃぁ~ん(鳴きマネ)……。
「駄目だ、考えなんぞまとまらぬ…猫可愛いんだもん」忽ち仔猫の可愛さに夢中になる。
告白のドキドキと仔猫の可愛らしさに包まれ、限界を突破したテンションが、更に未知の領域へと突入しようとしていた。
人にはとても見せることが出来ない格好で、2匹の仔猫を転がしたり匂いを嗅いだりしていると、後ろから変態|(弟)の足音が微かに聞こえてきた。
すぅーー、すぅーーー。すり足である。
本人は気付かれずに後ろに立ったと思っているようだが……。
その気配で急に現実に戻り冷静になった俺は、こちらから先に声をかけると、そいつは前足に力を入れて踏み込むところで止まった。
「今から紫織ちゃんが来るんだ。部屋で大人しくしてろよ」
「……ほほぅ……、姫が来るなら我の特製漬物を出そうかのぅ」
兄の恥ずかしい格好を見下しながら、弟はニヤニヤして無い髭を擦りながら答える。
「子猫を見に来るんだから、そんな臭いもの食わすな。ちびも警戒するだろ」
どうやら弟は後ろから近づき、手で俺に目隠しをして、「だぁぁ~れだ?ウフフっ」と得意の声真似をしてからかうつもりだったようだ。
前にもやられたことがあり、マジでマスタークラスの声真似だから厄介だ……。
弟は、体格の良い俺から見れば小柄だが、筋肉質でしなやかな身体をもち、顔は可愛い系といえる。
そして、小さい頃から俺と一緒に空手などを習い、様々な達人やアニメに影響されて言葉使いが変だ。
拘りと個性が強く、残念美男子というところかな、ゲームやアニメにも詳しいく多趣味なやつだ。
最近は家の庭に小さな畑を作り、野菜の栽培等農作業をしたり、自室の水槽でアクアポニックス?とやらをしていて、キュウリや何やらを作って色々試しているようだった。
中二だが中2には見えん……。
謎の行動も多く変態と呼ぶことにしている。
「兄上は知らぬようだが、ちびは既に我の漬物の虜よ。フフ、この前は味見をしようとしていたところ、バリバリと我の身体を登ってきて手から漬物を奪って行きよったわい」
「それは産後でよほど腹が減ってたんだな~」
それにしても、猫が漬物を奪うとは普通じゃない気がする……何入れたんだこいつ。
すっかり大切な事を忘れて、そんな事を考えていたら、誰かが玄関先に来たようだ。
ピンポンピポーーン……、彼女はいつもこんな感じで呼鈴を押す。
ドキッ……、「おっ、もう来たのか」と言って緊張な面持ちで振り返り、玄関へと向かう。
いつの間にかいない弟が、既に玄関ドアの内側の死角になるだろう場所に立っていた。
また何をする気だ?と目で言いながら玄関ドアを開ける。
そこには……、綺麗なロングの黒髪に小柄な身体、白い肌だが頬を赤らめた、ジト目の可愛子チャンがいた。
家で着替えてきたらしく、お気に入りのコートに、薄いグレーのチュニックと黒タイツ姿だ。
「どうも~、のっすー早く仔猫みせてー」
どうやら待ちきれない様子で、落ち着かない手をワキワキ動かしてもじもじしている。
彼女は普段御淑やかに振る舞うが、本心は感情的で結構大胆だ。
皆にはバレているのに、本人はそれを隠そうとしているところが尚可愛い。
「やあ紫織ちゃん、早かったね」
「ちびの子供なら絶対かわいいよ!は~や~く見せてよ~」
珍しく目をパッチリと開き、キラキラ輝かせて興奮していらっしゃる。
彼女は、彼女の本心を知る三神家では遠慮はしない。嬉しいことだ。
「ああ、どうぞ、変態に気をつけてね」そう言いながら中に誘導するが、彼女も慣れたもので警戒しながら中に入る。
閉めた玄関ドアの裏側には、隠れていたはずの弟の姿はない。
彼女は弟とも仲が良いため、当然その変態ぶりもよく知っている。
彼女がサッと背後を振り向いたり、ゆっくり見回したりしていたが、どうやら奴を察知出来ない様子。
俺も軽く周りを見渡すが、棚を外せば人が入れる大きさの下駄箱から、奴の目が光った様に見えた……。
その後、何事も無く居間にたどり着き、我家のアイドルちびとその仔猫達の猫ハウスへと向かう。
どうやら弟は、彼女が自分を警戒する様を、影から一方的に眺めて満足している様子だった。
ちくしょう、マジマジと彼女を眺めやがって!うらやま~~。
するとちびと仔猫の寝顔に対面した彼女が、見た目とギャップのある声で感情を爆発させた。
「ふぅぉおおおー」
彼女は今にも泣きそうな表情で仔猫のぽっこりとしたお腹をつつく。
一匹は三毛猫(ミィ)で、ちびの首に巻き付くように寝ている。
もう一匹は黒猫(チィ)で、ちびの腕の中に仰向けに寝ている。
「なにこれ、かわぃぃ、可愛すぎる。死ぬぅ~」と言いながら少し大袈裟に後ろに倒れこむ。
俺はその姿を満足な笑みで見守っていたのだが……。
……急にどこからかとても“嫌なものが迫り来る気配”を感じて、同時に立ち眩みの様になり、少し気分が悪くなってきた。
ちびもその違和感を感じたのか、俺達のいる場所以外をキョロキョロと見渡し、目を光らせていた。
「ふ~む?(何だろう……霊現象?怖いけど何か違うな……。紫織ちゃんは何も感じていないみたいだ)」
するといつの間にか弟が、漬物を手に彼女の背後に立っていた。
彼女との大事な時間なのに、相変わらず空気を読まないやつだ。
「姫、子猫もいいが我の漬物も良いゾ~」
奴は素早い動きで彼女に近づき、皿に乗った漬物を差し出す。
「真(シン)君何それ?くさっ」っと顔をしかめる彼女だが、楊枝に刺さった漬物を食べると、「だが美味い!」と言い姿勢を戻す。
俺は嫌な気分を紛らわす様に……、弟に向こうに行けと右手をひらひらさせた後、猫の近くにいる彼女に近づき……、仔猫に左手を伸ばす。
もっと食べさせようと彼女に近づく真……。
何かを感じ、光るちびの目……。
3人と3匹はその時、俺の半径1メートル以内に入るほど近かった。
仔猫に向かって伸ばした左腕の腕時計は16時53分頃だった。
あれ……、違和感がある。
仔猫を見ながら伸ばした腕、そこからちょっと目に入った腕時計の時間をみたのだが、一瞬の事なのにやけにはっきりと時間を確認出来た。
そう……この一瞬、何故か時間の流れがゆっくりになったと感じた。
不思議な感覚に一瞬戸惑うと、信じられない事に、俺の身体が段々と光に包まれていく。
近くにいたちびや皆が、光る俺に気づいてこっちを向く。
視界の端に一瞬見えたシンは引きつった顔だが嬉しそうだ、「おお!」っと声を出している。
ほんとこの一瞬は、仔猫に手を伸ばした後、0.5秒以内位だと思う、なのに冷静に見たり考える余裕があるし、10秒くらいあった気がする。
眩い光に包まれた俺は、瞬く間に凄まじい光で自分の辺りをも包んだ。
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……。
…………!
気がつくと、閃光の走る空間を飛んでいた。
一人で宇宙のような空間を、星々?と共に飛んでいたのだ。
「なんだ!……ここは?……皆は?」
さっきまで居間にいて……、何てことない日常があったはずだ。
そういえば気分が悪くなり、身体が光りだしたんだっけ?
今は……どうやら何処かへ向かって飛んでいる様だ。
そう思った時、前方から凄まじい速さで俺の隣に光が飛んできた。
自分と同じ速さで飛ぶそれは、一緒に並んで飛んでいる形となり、なんと語りかけてきたのだ。
『異世界人よ、貴方は今、ある世界の攻撃魔法として召喚されました。ザイノスという魔神を呼ぶ召喚魔法です』
「え……?」
女性の声で日本語を話すその光は、少し急いだ口調で語りかけてくる。
『本来ザイノスはこちらの世界の魔神。召喚で現れた後、術者を助け速やかに去る契約。ですが、我が友ザイノスは、十五年前に亡くなりました。そして貴方がその転生者です』
「転生……」
『貴方が転生者として目覚めていない場合、契約の立会人である女神の私が、召喚演出中に貴方の助けをする事になっています』
「え?……召喚演出中?」
『ええ、今は時間の流れを抑えていますが、召喚されるまであまり時間がありません。貴方はおそらく召喚後の時点では、魔力が足りず自分の世界には戻れないでしょう。私も貴方がこちらの世界に来た今でなくては、接触出来ませんでした』
「はぁ……て戻れないの⁉」
『自分の力で元の世界に戻るための方法、もしくは、転移魔法などを探すのです。あまり詳しく話している時間はありません。魔神である貴方の力とは別に、こちらの世界で生きていくための幾つかの能力と、特別に、貴方の望む物や力を、出来るだけ叶えましょう』
「う~、えらいことになったなー。しかし、欲しいものかぁ……」
『とはいえ魔神なのですから、助けなど必要ないのですが。さぁ速やかに仰ってください』
信じられない事だが……。
とにかく迷っている場合ではないみたいだ。
目の前には目的地らしい大きな光の壁が迫っていた。
「ん~と、強い力と、仲間と、お金と、食料と、ちびと、……仔猫と安全な場所と……………最強の」
『時間です!』
ああ……とっさには考えつかんよなぁ~……泣。
さっきまで猫と一緒だったから、つい頭に浮かんだ仔猫まで言っちゃった。
『……見守っています………頑張……』
サイノスは光の中に吸い込まれていった。
初投稿なので緊張しました。読んで下さって有難うございます。