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ノア(仮)  作者: 直方 諒
29/30

襲撃

お詫び


作者都合:慢性的な体調不良につき、定期的で安定した更新ができなくなっております。


今回以降、不定期更新に移行させていただきます。

 朝食を済ませて精錬作業に入るノアの後を追って、リトが錬金術工房に入ってきた。

「邪魔をする。」

 そう言って隣の机に陣取ったリトだが、特に用事があるわけではないようで、ライラと共に細々とした準備をするノアをただ見ているだけだ。

 リトは今日は特に予定がないと言っていた。連絡待ちをしながら他に用事を入れる気分にもなれず、時間をもて余しているのだろう。

『リトさん、なんだか晴れない表情(かお)ね。』

『うん。みんなが心配なんだと思うよ。』

 あまり表情を面に出さないリトだが、ライラの手話する(いう)通り、今日はどこか曇った空気だ。

「カークからもアル達からも、まだ連絡ないんだね。」

 間がもたず、ノアは準備が一段落ついたタイミングでリトに訊いてみる。

「ああ。

 と言っても、アル等が王城で抗議を手配するにしてもまだ早い時分だ。」

 机の上に仕分けた精錬材料を眺めながら、リトが答えてくれた。

「順調ならばそろそろ王城に着こうかという頃合いではあるのだが、何もなければ動きがあるまで連絡もあるまいな。」




 王城と大教会とはさほど離れていない。馬の脚ならばほんのひと駆けだ。

 灰色の魔法衣(ローブ)姿の尾行者達は、その終わり際…もう少しで衛兵の姿も見えようかという頃に動き始めた。

 行き先が王城と確認してか、ふたりを囲うように馬を寄せてくる。

『テルザ、お前は手を出すなよ。俺がコイツらを抑えるから、お前はそのまま城門に向かえ。』

『…アル…。』

 賊を引き連れたまま城門に馬で駆け込むわけにもいかないだろう。ゆっくりと減速して、アルは迎え撃つ算段を始めた。


「貴様等、俺が誰だかわかっていてこのような無礼を働いているのだろうな!」

 アルが一喝するが、彼等を囲い込もうとする馬の動きに変化はない。

 完全に包囲すると、尾行者達は剣を抜き、馬上で構えた。

 ━━━一戦お望みってか。

 手綱を左手に預け、アルも腰に帯びた剣を一本抜き放つ。

「道を開けろ! 邪魔をするというならば圧し通る!」

 大声で牽制する言葉を聞き入れる様子はない。

 構わず進路を塞ぎテルザに近付こうとする男に、アルは宣言通り馬ごと体当たりを食らわせた。

「うわっ!」

 まともに激突された馬が驚いて言うことを聞かなくなり、囲んだ馬列から一頭が外れる。

『テルザ、先に行け!』

『絶対に無事で戻ってよ!』

『もちろんだ!』

 尾行者…襲撃者達には、ゴロツキじみた気配はあっても、剣や馬に特に手練た様子の者はいない。こんな輩ならば、数に頼ろうともアル一人で十分だ。

 テルザが包囲を抜けて馬を回すと、

「女を追え!」

狙いはテルザだったのか、それとも王城に向かうこと自体を防ぎたいのか、男の一人が声を上げた。

「行かせるかよ!」

 アルも間隙から抜けて襲撃者達とテルザの間に馬を操り、追撃させないように馬体で遮る。

「さーて、どいつから地面を舐めたい?」

 手首を返して剣をかざし、アルは襲撃者達に挑発の言葉を投げた。




「…テルザからの連絡だ。」

「え?」

 体力回復の秘薬の精錬を始めて間もないうちに、突然リトが呟いた。

「王城へ向かう途中に何者かの一団に襲撃されたと言っている。

 アルが城門の手前で応戦していると。」

 自分でも口に出して確認しているのか、リトがテルザのテレパスの内容をリアルタイムに教えてくれる。

 ノアは精錬の手を止めて、リトの言葉を待った。

「賊は(くだん)魔法衣(ローブ)を纏っていたらしい。

 テルザは先に王城に逃がされて、城門の衛兵詰所でアルの帰りを待っている所だそうだ。」

「良かった、テルザさんは無事なんだ。」

 テルザには魔力を使わせたくない。ましてや、魔法を防ぐローブを相手にするならば尚更、対抗するにはそれを破るような強い魔法が必要になる。そんな輩の相手をさせるわけにはいかない。

 平穏に暮らしていれば一般人と変わらない生活を送れる見通しではいるが、テルザはすでにリッチなのだ…魔力を濫用すれば、魔物(モンスター)化を引き起こすおそれがある。

 だからアルは、テルザを先に行かせて自分が賊を引き付けたのだろう。テルザも、今の自分は足手纏いにしかならないのを知っているからこそ、アルを信頼して戦線を離れたと推測できる。

「…テルザから護衛(アル)が離れているのは少々心配だが、アルの方は心配なかろう。

 己の力量と敵の戦力を見誤るほど未熟な男ではない。」

 アルがひとりで引き受けたのだから、ひとりで対処できる程度の賊なのだ。手に負えないならば別の対応をするだけの力量をアルは持っている。リトは、それに関しては確信していた。

「アルがテルザと離れての応戦を選んだのだから、決着はそう長くはかからないはずだ。次の連絡を待つこととしようか。

 精錬の邪魔をしてしまったな…作業を続けてくれ。」




「お前等、大教会から尾いてきていたよな…誰の差し金だ?」

 砂埃にまみれて呻く男に、馬から降りたアルは剣を突きつけて尋問する。

 アルからは致命傷は与えていないが、落馬して打ち所でも悪かったか、随分と苦しそうだ。口を結んで返事を返す気配もない。

「…チッ。」

 男から剣を離して周りを見回していると、数名の衛兵が王城の方角からようやく到着した。

「何事ですかこれは!」

 アルの周りには、地面に伏す三人の男達。五人のうち二人は、馬ごと大教会方面に逃げ出して姿が見えない。

 その光景を確認して、衛兵のひとりが、その場に立つ唯一の存在…アルに説明を求めて来る。

「おう、悪いな。コイツら回収して尋問してくれるか。あと二人馬で逃げてる。

 大教会からくっついてきていて、このへんで襲われてなー。」

「馬鹿を言え! 我々は大教会から王城への使者だ!

 大切な荷物を運んでいた所を、そこの男に襲撃されたのだ!」

「はぁっ?!」

 倒れ伏していた男の一人が、突然声を上げた。今まで気絶した振りをしていたのか、先程声をかけた時には返事もしなかったが、意識はしっかりしているようだ。

「これが王城へ届けるはずだった(ふみ)だ。然るべく届けてほしい。

 …その男は大教会に難癖をつけに来ていた。その腹いせの行いだろう!」

 懐からなにやら紙束を出し、男は主張する。

 あとの二人も、傷に呻きながら我々は被害者だと口々に訴えている。

「…どういうことですか?」

「奴等、俺を嵌めようとしてる…ってことだろうな。」

 考えてみれば、何故王城に近付いてからの襲撃だったのか…王城付近での礼儀として命までは取るまいと見越し、失敗したらこうやって濡れ衣を着せて足止めするためだったということか。

 アルの側に目立った負傷もないことも、襲撃者達の口から出任せの信憑性を高めそうだ。

「と…ともかく、双方からお話を聞かせて頂きます。ご同行願えますね。」

「ああ。」

 戸惑った様子の衛兵に、アルは仕方なく頷いた。こちらに疚しいことはないのだ、ごねて見せても仕方がない。

「では、詰所までご同道願います。」

 先を導くように歩き出した衛兵に、

「なあ、城門に知らせに行った女性がいたろう?」

アルはテルザのことを問いかけた。

「はい。今は詰所に待機してもらっています。

 戻ったら彼女にもお話を伺わねばなりませんね。」

 どうやら無事に城門にはたどり着いたようで一安心する。だが、賊も二人は取り逃がしたし、テルザの身の安全が確保されたわけではない。アルは言葉を続けた。

「その件なんだがな、アイツは今命を狙われているんだ。

 悪いが、色々と済むまで、俺の代わりの護衛を付けてもらいたい。」

「?! わかりました、手配しておきます。」

「頼む。」

 思ったより簡単にテルザの護衛を承諾させられて、少しほっとする。

「じゃあさっさと用事が済むように、早く詰所に移動しようか?」




「ディアザルテ男爵!」

「よう、ヴァリエ隊長、久しぶりだな。」

 詰所の奥から出てきた男の呼んだ男爵という言葉に、衛兵達がざわざわとざわついた。

 衛兵達は、まさか自分達の連行してきた男が爵位持ちだったなどと思わなかったのだ。普通の爵位持ちならば、連行の時点で身分を振りかざして優遇を要求してくるはずなのだから。

「奥方様が応接室にいると思ったら…貴方々一体何やらかしたんですか。」

「いやー、教会関係らしき賊に襲われて返り討ちにしたら、向こうはこっちが襲ったって言い出してな。

 そいつ等も先に到着しているんじゃないか?」

「ええ、なにやら三名ほど。

 …教会と揉めているんですか? あんな面倒くさい所とわざわざ?」

 大きな声では言えないが、本気で面倒くさがっている声音でヴァリエがアルに囁く。

「しょうがねーんだよ。大教会を訪れた俺のクラン員…ケイデリオ=アークシェルを、テレパスも通じない環境で面会謝絶にして帰さないんでな。

 誘拐案件と判断して王城(こちら)に報告しにきた矢先にこれだ。」

 カークの名が出た所で、衛兵達の隊長ヴァリエの表情が硬くなった。

「はー、ついに教会も強硬手段に出たわけですか。

 教会がアークシェル司祭を帰属させたがっているのは周知ですからね。」

 ヴァリエがひとりで納得していると。

「アル! 良かった、無事ね? 怪我はない?」

「テルザ! お前も何もなかったか?」

 テルザと、先程アルを案内した衛兵、ペンを持った書記官らしき男とが、二人の元に姿を現した。

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