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ノア(仮)  作者: 直方 諒
27/30

連絡

『ノア、そちらはどうだ?』

 拠点への帰り道を歩いていてアクセスしてきたリトからのテレパスに、ノアは少し緊張していた気分が解れた気がした。

『こちらは大丈夫だよ。

 館の敷地までと言ってシーマさんが同行しているけど、特に問題はない。』

『そうか。ディノ等がいるから心配はしていなかったが、別段不穏な動きをしていないのならば良かった。』

 テレパスの声が少し安心した風に聞こえる。

『リトはまだセルディアさんと話を?』

『だいたい話は終わった。じきに追い付く。』

『わかった、待ってるね。』

 テレパスを終了して、ノアはほっとため息を吐いた。

「リトからか?」

 それを察したのか、ディノが問い掛けてくる。

「うん。じきに追い付くって。」

「そうか。まあ館に着く方が先かもしれんがな。」

 角を曲がると、もう館が見えてきた。

「…俺はここまでかな。」

 館の門までたどり着くと、無言でついてきていたシーマが呟く。

「シーマ。」

 そのタイミングで、リトと共に追い付いてきたセルディアから声が掛かった。

「この者は何分不調法な所がありますが、失礼はありませんでしたか?」

「何もしてねーよ。」

「その口のきき方が不調法だと言っているのよ。」

「大丈夫です。何もありませんでした。」

 ノアが微笑むと、セルディアが安心した表情で微笑み返す。

 そうだ。と、ノアは彼女に話しかけた。

「セルディアさん、おれはこれから数日は館に籠って活動する予定なんです。ご足労頂いても、無駄足になると思います。」

「! わざわざありがとうございます。

 ノインスファルス卿と話をさせていただき、だいたいの事情を窺いましたし、今日の調査だけで上には報告しようと思います。」

 柔らかで好意的な声に、ノアは不思議に思いながらひとつ頷いた。

「やけに聞き分けがいいじゃないか。なに話してきたんだよ。」

「黙りなさいシーマ。後で話します。

 それでは私共はこれで失礼致します。」

 一同に頭を下げ、シーマの頭を押さえて彼にも礼をさせると、セルディアは驚くほど素直にノア達の前から姿を消した。

「…リト、いったいどのような話をしてきたのだ?」

 ディノが困惑した顔でリトに訊く。

「まあ、茶でも飲みながら話そうではないか。」

 飄々とした体のリトはさっさと館に入っていく。

 一同もそれに倣い、めいめいに館の門をくぐった。


「おっかえり~♪」

「おかえりなさーい!」

「ただいま、レノちゃん、メイちゃん。」

 一行が帰って来た気配に飛び出してきたふたりに挨拶すると、ふたりともニコニコしながらノアの手を引っ張る。

「みんなが帰ってくるの待ってたんだよ~♪」

「今日はフォンがおやつ作ってくれてるよ~、早く早く!」

 どうやら、全員が揃うまでティータイム待ちだったようだ。

「お帰りなさいみんな。」

 食堂で迎えてくれたフォンが抱えた大きなガラスのボウルには、シロップに漬けられた色とりどりのカットフルーツが盛られている。

「わあ、綺麗ですね。」

「今お茶を淹れるわね、座っていて。」

 テーブルにガラスボウルを置き、フォンはまた厨房へ向かう。レノとメイもその後に続いた。

「なんだミシェ、浮かない顔だな。」

 先にテーブルに着いて待っていたミシェに、リトが声をかける。

「もう大丈夫だって言っているのに、フォンが何もさせてくれないんだもの。」

「フォンはそれだけ心配しているのだ、そう不満そうな顔をしてやるな。」

 苦笑いするディノに、ウィルもうんうんと頷く。

「何せ昨日の今日だからな。」

 リトもそれに同意して席に着く。

「あーあ、早くカークが帰って来ないかしら。

 カークから治癒を受ければもう動いていいのでしょう?」

 少し拗ねた顔をして、ミシェが呟く。

「カークからお墨付きが出ればな。」

「催促のテレパスしちゃおうかしら。」

「おいおい、そんなことしたって、帰って来るの明日だろう?」

 ミシェの言葉に、ウィルが呆れた顔をする。だが。

「…あら? カークにテレパスが通じないわ。」

「本当にテレパスしたのかよ!」

 ミシェの言葉にウィルがツッコミを入れる。

「でもおかしいのよ、テレパスを受けないのではなく、弾かれているわ。

 遮音の結界か何かの中にいるみたい。」

「大教会に行ってるんだろ? 聖堂かどっかにいるんじゃないのか?」

 聖堂は神聖な場所だ。確かにそこならば、各種の結界が張ってあり、テレパスも通じないだろう。

「…それならいいのだけれど。」

「予定ではそろそろ帰路に着く頃のはずだったな。後でもう一度テレパスしてみよう。」

「そうだな。」

 何か嫌なものを感じたのか、ディノが提案し、リトも頷く。

 そうしているうちに、フォンがティーポットをトレイに乗せて食堂に帰って来た。メイとレノもカップやミルクのピッチャーを運んでお手伝いしている。

「どうしたの?」

「なんでもないわ。ちょっとカークに連絡がつかなかっただけよ。」

 神妙な空気に、カップに紅茶を注ぎ分けながら何事かと訊ねるフォンに、ミシェが重たくならない口調で答えた。

「あら…。」

「大丈夫よ、カークのことですもの、多分聖堂にでも入っているんじゃないかって話していたところよ。

 さ、お茶にしましょう。今日のお出かけの話を聞かせてちょうだい。」

 紅茶の入ったカップを配り、ミシェが皆を不安にさせないように導く。

 この時はまだ、気のせいと言えばそう言ってしまえる程度の、少しの嫌な予感だけだった。




 それが深刻なものになったのは、ラウンジに集まった皆を代表してディノがもう一度カークにテレパスを送った夕刻のことだった。

「やはり連絡がつかない。」

 聖堂で礼拝をしているにしては時間がかかりすぎているし、予定通りならばもうそろそろ帰路に着いていておかしくない時間だ。

「カークは以前から教会付きになるよう要請を受けていたから、引き止められているだけやもしれんが…テレパスが通じないというのは穏やかでないな。

 大教会ならば、アル達の方が近い。アルに連絡を取ってみるか。」

 そう言うと、リトが少し黙り込んだ。

『おー、リト。どうした?』

 城での用事は全て済んでいたのだろう、アルはすぐにテレパスに応じた。

『貴様は通じたな、良かった。

 カークと連絡が付かない。ミシェとディノが午後の茶の時間と今テレパスを送ってみたが、弾かれてしまうようだ。』

『なんだって? わかった、こっちからも連絡入れてみて、大教会の方にも行ってみるわ。

 帰りはまた遅くなるだろうけど、そっちの方よろしく頼むな。』

『わかった。テルザもいる、くれぐれも用心して行動しろ。』

『ん、わかってる。また連絡するな。』

 テレパスを終了すると、リトはじっと見詰めていたメイに向き合った。

「済まんな、メイ。アルにカークの件を頼んだから、テルザとアルの帰りが遅くなる。」

「うん、平気だよ。それよりカーク大丈夫なのかな…。」

 不安そうな顔をするメイ。

 皆同じ心境なのだろう、言葉がなくなった。

「…ノア、そんなに深刻な顔をするな。

 まだ何かあったと決まったわけでもあるまいに。」

 かかったリトの声に、ノアははっと顔に手をやった。

「でも…おれが…。」

 カークが大教会に行くきっかけとなったのは、ノアのことがあったからだ。厳密にはノアのことだけではないが、責任を感じてしまう。

 その気持ちもわかるのだろう、リトが少し優しい声音でノアを諭した。

「情報のない状態で案じても仕方がない。じきにアルが連絡を入れてくれる。それを待つとしよう。

 さあ皆、夕食の準備ができたようだぞ、食堂に移動しようか。」




 食事は美味しかったのだが、なんだか食欲がわかなくて、ノアはあまり食べられなかった。

 メイやレノ、ミシェにフォンも同じようで、いつもなら綺麗に片付く食卓の大皿には、料理が残ってしまっていた。

 常ならば食事の友に開けられる酒にも、酒豪のディノですら手を付けない。

「後程お腹が空かれるかもしれませんから、取り置けるものはお夜食用にサンドイッチとしてお出ししますね。」

「済まんな、そうしてくれ。」

 館付きメイドが料理を下げながら提案する。リトがそれに応じると、メイドは一礼をして下がった。


 食事は片付けられたが、食堂から誰も出ていこうとしない。皆、カークから、アルからの連絡を待っているのだ。

「…おねーちゃんからだ!」

 夜も大分深まってきた頃、不意にメイが声を上げた。

「テルザから? どうですって?」

「あのね、どうしてもカークに会わせてもらえないんだって。

 アルが今抗議しているところだけど、カークは魔力の使いすぎで体調崩して安静にしてるって言い張ってるって。」

 ミシェの追求に、メイが一生懸命答える。

「こちらにもアルからテレパスが来た。

 とにかく今日のところは帰れと埒が開かんそうだ。」

 メイに続けて発したリトの言葉が険しい。

「あの自己管理のしっかりしたカークが魔力切れで倒れるだと? 有り得ん。

 そもそも教会にいて何故そのようなことが起こる。不自然過ぎるだろう。」

「明らかに胡散臭いな。」

 リトの憤慨にディノが同意する。

「もう夜も遅い。あまり長居すると、宵闇に乗じてテルザに何があるかわからんから、とりあえず近くに宿を借りてまた明日カークの身柄を要求しに行くそうだ。

 …カークは教会にとって在野に置くには惜しい存在らしいからな、手荒な真似はされていないとは思う。それを信じて明日を待つとしよう。」

 普段あまり感情を大きく表に出さないリトの言葉が苦々しい。それだけカークを案じているのだろう。

 どうかカークが無事でありますよう…胸の中で願って、リトに促されるまま、皆それぞれの部屋に帰って行ったのだった。

7月7日追記

7月8日は、都合により更新をお休みさせていただきます。

大変申し訳ありません。

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