#5 秘密の気持ち
佐々木先輩に彼女がいると知ってから何故か何とも言えないもやもやした気持ちが消えないままだった。
「稚依!」
「はいっ!!!」
いきなり耳元から声が聞こえたと思えば、目の前に杏珠が立っていた。
「あんたちょっとここんとこぼーっとしすぎじゃない?何かあったの?」
「いや、特に何も…」
「何もって顔してないし悩んでんのバレバレだわ」
「悩んでると言いますかなんと言いますか」
「ほれ、話してみなさい」
どこからどう話せばいいのかすらも分からない。ただ一つ分かることは、あのとき、佐々木先輩に彼女がいると知って ちくり と胸が痛んだことだ。
「あのね、佐々木先輩に彼女がいるっていってたじゃん?」
「ほう」
「それ聞いたとき、何だかちくってちょっと針で刺されたみたいに胸が痛くなって…」
杏珠は目を真ん丸くしてこう言った。
「あんたそれ、佐々木先輩のこと好きなんじゃん」
好き?好きと言えば愛してるとかLOVEとかそっち系の好きではないか
「私が?佐々木先輩を…?」
だってそんなはずは…
まだ知り合って数えるくらいしか経っていないのだ。そんなに早く誰かを好きになることがありえるのか。待て待て待て
「だってまだ知り合って…」
「うだうだ言わない!知り合って何日経ったとか何ヶ月だとかあんたが恋をすることにそんなの関係ないの!気にしなくていいの!」
「でも彼女いるし…」
「はあ?!あんた彼女いるから諦めますとかそんなの無理だわ!これからあんたがもっと先輩のこと好きになったら…」
「ならないっ!ならないよ…他人の幸せ奪うとかそんなの絶対嫌だし…好きになんかならないよ!ならない…」
「稚依…」
幸せを奪われることには慣れていても誰かの幸せを奪うことになんて慣れたくない。奪われる辛さは分かっている。知っている。
だから私はこの気持ちを胸の奥底に潜めて鍵をかけることにした。
佐々木先輩を好きにならない。