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#3 諒陽先輩と私②

大学に入学してから数日後、あの無愛想な佐々木先輩がたった一人で、たった一人でだ 私に用事があるとクラスに来た。佐々木先輩の隣を何度見てみてもそこに諒陽先輩の姿はない。まともに会話をしたこともないのに何故私に用があるというのか。


「いいから来て」

「はあ、」


言われるがままといったところだ。先輩であるし断るわけにもいかず佐々木先輩の一歩後ろを歩いてついて行った。



中庭に着くとついこの間 私と諒陽先輩が話していたように佐々木先輩が中庭にあるベンチに腰を掛けた。


「この間、ここで諒陽と話してたろ?」

「ええええ 何で知ってるんですか」


あの日、散歩に行くと言ってふらっと姿を消した佐々木先輩が何故私と諒陽先輩がここで話していたのを知っているのだろう。


「たまたま見えただけ。諒陽とはどういう関係?」

「いっ、いきなり何ですか?!」


急に連れてこられたと思えばこれまた急な質問だ。


「諒陽との出会いを聞かせてほしいなー」

「諒陽先輩との出会い、ですか…?」

「そう」


話すことを決め、私は四年前を思い出した



****


四年前、まだ中学生だった私はただただこのつまらない世の中に絶望していた。

人間は上っ面の言葉ばかりを並べて友達だの愛情だのと御託を並べて生きている。友達がいるから何だというのだろう。愛情があれば平和な世の中なのだろうか。

いつもと同じように学校から自宅へと帰る道の途中に公園があり、何となく公園に寄ってみるとそこには一匹の野良犬がいた。すると子犬が三匹とことことやってきたのだ。この野良犬は一体誰に捨てられどう生きていくのか。私はただ悲しくなった。


「君たちは誰かに捨てられたの?」


答えが返ってくるわけでもないけれどすごく悲しい気持ちになって問いかけた。


「悲しいね、どうしてそんな冷たい人がいる世の中なんだろうね」


自分の存在価値が分からなくなってもこの野良犬は子犬たちを守っていかなければならないのか。私には何ができるだろう。

しばらくぼーっとしているとぽつぽつと雨が降り始めた。すると子犬たちは私の傍に寄り添ってきた。


「寒いよね、何も持ってなくてごめんね」


「どうしたの?大丈夫?!」


どうしようと思っていると後ろから声がした。

振り返ると傘をさして立っているお兄さんがいた。


「どうしたの?何かあったの?大丈夫?」


初対面なのにひどく心配そうに私を見つめているので私はただ ううん と横に首を振った。


「わぁ、可愛い子犬たちだね」


目をキラキラと輝かせて子犬を見ている。

そして子犬を抱き上げるとまた私に視線を向けて問いかけてきた。


「どうしてそんなに悲しそうな瞳をしてるの?」

「普通なんだけどなぁ…」

「ほら、お兄さんに話してみて」


初対面なのにどうしてだろう。私はつらつらとこの世の中に絶望したんだと、どう生きていけばいいのか ただひたすら話した。


「それならさ、俺が幸せを分けてあげる!だから生きよう!俺の為に生きてよ」


お兄さんはにこにこと優しく微笑みそう言った。


この日からだ、諒陽先輩が私の生きていく理由になったのは。



****


「これが私と諒陽先輩の出会いです」


話終えると佐々木先輩は何かを考えるようにしていた。


「あのー…」

「じゃあさ、」

「はい」

「俺も、」

「?」


「俺も稚依の生きる理由になる」


私は耳を疑った。佐々木先輩は今何と言ったのだろう。私の生きる理由になる?佐々木先輩が?何故?


「え?え?ちょっと待ってください、どういうことですか?」

「だから、俺も稚依の生きる理由になるって言ってんの」

「稚依…ってまさか私ですか…?」

「そう」

「は、はあ」



ついこの間までの佐々木先輩とはまるで別人のようだった。





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