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プロローグ
「これは……しくった……」
雨霧雲行は薄れゆく意識の中、一言だけそう呟いた。
彼が寝転んでいる場所は、突尾山という山の奥深くにある崖の真下だった。運悪く足を踏み外し、転げ落ちてしまったのだ。
彼の傍らには大きなリュックサックと電池が飛び出した懐中電灯が転がっている。粉砕してしまっていないところを見ると、そこまで崖は高くなかったのかもしれない。
しかし無防備な状態で転落したため、頭を打ってしまっていた。今にも意識を失いそうな状態だ。
今はちょうど十一月の末という、寒さがどんどん深まっていく時期だった。しかも時刻は深夜一時を過ぎている。この寒さの中で眠ってしまえばきっと凍死するだろう。けれどこんな時期のこんな時間に山中の崖の下にやってくる人間などいるわけがない。
必死に意識を保っていたが、それにも限界が来てしまう。意思に反して、瞼がゆっくりと下りていった。
雲行は死を覚悟した――。
「そんなところで寝ていると風邪を引くぞ」
最後に雲行の瞳に映ったのは、プラチナブロンドの髪を靡かせる青い瞳の小さな少女の姿だった。