表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/18

汚れ仕事


 逮捕され、マスコミの前に引きずり出されると、霧崎は悪魔と呼ばれるようになった。通りすがりの女性から奪い取った赤ん坊を、いきなりナイフで刺し殺したのだから、そう言われるのも当然だろう。子供を目の前で殺された母親が、マンションの屋上から飛び降りたときも、謝罪の言葉はなかった。

「何か、言い残すことは?」

「いいえ」

 彼の首に縄をかけた執行人は、罪人の表情を見て背筋が寒くなった。死刑囚は、笑みを浮かべていた。優勝をしたスポーツ選手のような、なにかをやり遂げた者特有のさわやかな笑顔だった。

「理解できないな。まあ、犯罪者の心理など知る必要はないか」

 執行人は首を振った。

「これで、よかったんだよ。これでね」

 霧崎は、深く溜息をついた。

 恐怖はなかった。あるはずはない。自分はいい事をしたのだから、天国へ行けるだろう。

 彼は子供のころ病気で死にかけたのがきっかけで、触れた者の未来が読み取れるようになった。あのとき、ちょっとしたことから赤ん坊に触れた霧崎が見たのは、ガレキとたくさんの死体。物の焦げる匂いと、呻き声。そして、高笑いする成長した赤ん坊。

 そう。あの赤ん坊は、彼に殺されなければ将来爆弾魔になって大きなビルを破壊し、五百人もの命を奪っただろう。間接的に殺してしまった母親はかわいそうだが、仕方のないことだった。

 人殺し、悪魔。容赦なく投げつけられた罵声を、彼はぼんやりと思い出した。自分の名は、凶悪犯として人々の記憶に残るに違いない。いや、少しの間ワイドショーを賑わせて、そのまま消えるだろうか。

 人の命を救った英雄にしてはあんまりな結末だが、彼は別に構わなかった。大切なのは、自分がたくさんの人を救ったという事実。

きっと、俺は天国へいける。霧崎はまた微笑んだ。霧崎の顔に、目隠しの黒い袋がかぶせられた。


 気がつくと、霧崎は真っ白な世界を漂っていた。暑くもなく、寒くもなく、なんの匂いもしなかった。どうやら、ここがあの世という場所らしい。

 空間が波打って、霧崎の目の前に神様が現れた。

「神様…… 私は天国に……」

「何を言っているんだ、何を。お前は地獄行きだ!」

「な…… なぜ」

「あの赤ん坊が殺すはずだった五百人の中には、将来、核より酷い兵器を作る科学者と、その協力者数人が混ざっていたのだよ。巻添えを食う者はかわいそうだが、世界が滅びるよりはと、まとめて始末する計画だったのに……」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ