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生還の後で

「で、どうだった? 肝試しは」

 西上にしうえがお通しのえ物をつつきながら言った。

 この間の日曜日、俺と友人の岩井は、数年前に廃校になった小学校に二人で肝試しに行った。

用事があって行けなかった西上、大学生にもなってくだらないと参加しなかったクールな谷崎(実は怖かったんじゃないかと俺は踏んでいる)のために、四人で居酒屋に集まって報告会をしようということになったのである。廃校探索なんて本当は不法侵入なのだが、個室を頼んだので店員さんに眉をひそめられる事はないだろう。

「いや、迫力満点だったよ、まだ時計とか残っててな」

「へえ」

 俺の言葉に西上は興味津々で身を乗り出してきた。こいつは参加できなかったのを最後まで残念がっていたのだ。谷崎は黙って運ばれてきた酒を飲んでいる。

「まだ子供の絵が貼りだされたままになってて。下手クソで輪郭も目も歪んでるのが余計に怖いんだ」

 語るうちに、暗闇の中を懐中電灯一本で歩いた恐怖と興奮がよみがえってくるようだった。それこそ、子供の頃に信じていた花子さんやら動く人体模型やらが出てくるんじゃないかと思った。

「ほれ」と岩井がスマホで撮った写真をぱらぱらと居残り組に見せていく。

 最初は、『×××小学校』の文字が彫られた校門の前で、俺と岩井がふざけている写真。続いて誰もいない、暗く延々と続く廊下。壁に染みのついたトイレ、教室、理科室の扉や標本等々。

 ちらっと他のメンバーの反応を覗いてみる。西上は身を乗り出してスマホを見つめている。谷崎は、固まったように動かない。やっぱりなんのかんの言っても怖がりなのだろう。俺は少しおかしくなった。

「実は、ここの個室で昔女子児童が自殺したらしいぞ」

 俺がネットで仕入れた情報を言うと、西上は「うわあ」とどこか嬉しそうな悲鳴をあげた。谷崎は「へえ」と黙って画面を見つめていた。

「でさ、これってオーブじゃね?」

 岩井が写真の一枚を見せる。便器の上に、確かに白い光球が浮いていた。心霊番組では死者の魂が映ったもの、と解説される、あれだ。

「ほこりが反射しているだけだろ。で、どこまで行ったんだ?」

 西上が聞いてきた。

「二階の端の音楽室を目指して登っていったんだけどさ。踊り場に大きい姿見があって。岩井の奴、知らない人影が映ったとか大騒ぎしてよ」

「あっ! 言うなよお前! 恥ずかしい」

 岩井が肩を叩いてきたが、俺はかまわずに続ける。

「なんの事はない、鏡にとまった虫の影を見間違えただけだったんだ」

 まあ、あんな暗闇の中、懐中電灯一つだったのだから、岩井が恐がったののは無理もないと思う。

 岩井は鏡の写真を見せてきた。下に「××工務店寄贈」と金色の文字で書かれた鏡に、スマホを構える岩井と俺が映っている。

「で、結局幽霊は出なかったのか?」

 西上が笑いをこらえながら聞いてくる。

「ああ、出なかった出なかった。ベートーベンの目が光ることもなかったし、ピアノが勝手に鳴りだすこともなかったしな。結局、特に変わったこともなく何枚か写真撮ってきて終わり」

「変だな」

 そこまで黙って聞いていた谷崎がぼそっと口を開いた。

「何が?」

「いや、なんだか、盛り上がってるみたいだし、しらけさせるのも悪いと思ったから言わなかったけど、実は俺、『×××小学校』の卒業生だったんだわ」

「ええ?!」

思わず声が出た。

 そういえば、谷崎は無口なタチだし、俺達も興味がなかったから、奴の出身校というか、大学に入る前の学歴なんて聞いた事が無かったのだ。

「ほれ、証拠。あの小学校は、俺が卒業したのと同時に廃校になったんだ。俺らが最後の卒業生だってわけ」

谷崎は岩井のスマホをいじって教室の写真を表示させる。そして掲示板をアップにしてみせた。そこには『夢』の書道がずらずらと貼ってある。その中の一枚に、『谷崎 孝紀』の名前があった。

 孝紀たかのりは谷崎の下の名前だ。漢字も同じ。どうやら、谷崎の言葉は嘘ではないらしい。

「い、いや。それは分ったけどよ。何が変なんだ?」

「トイレで自殺した生徒がいるなんて、聞いたことがないぞ。なんでオーブがでるんだ?」

「なあんだ。じゃあ、やっぱりホコリが懐中電灯の光に反射したんだよ」

 西村が得意気に言った。

「なんだよ~じゃあ、全然いわくもない普通の小学校だってことか。自殺ウンヌンってのは、勝手に誰かが後付けで話を盛ったんだな。噂には尾ひれがつくっていうし」

 なんだか俺はガッカリしてしまった。

「鏡の事も変だぞ。確かに見たんだよな? 二階の端の廊下で?」

「ああ」

 見たんだよな、も何も、こうやってスマホに証拠写真が入っているのに、いまさら何を言っているんだろう。

「あそこの鏡は割れて取り外されたんだ。廃校になるまで、結局新しいのは設置されないままだったのに。廃校になってからわざわざ鏡を買うはずないし」

「え?」

「というか、そもそも、あの校舎は取り壊されたぞ」

驚く俺達に、ぼそっと谷崎が呟いた。

「お前ら、どこの世界の『×××小』に行ってきたんだ?」


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