演説
彼らは語った。
自分達が貴族であること。その身分を捨てて反乱軍をまとめようとしていること。少ないながらも協力者がいること。今の貴族体制を根本から変えて農民が住みやすくなるようにしたいと。
その言葉を疑う者もいた。これは敵の罠ではないかと。信じる者もいた。若い彼らなら何か変えてくれるのではないかと。そして敬うものもいた。身分を捨ててまで農民を助けようとするその姿を。
私は疑ってはいなかった。でも人が次々と物に変わってゆく光景を二度と見たくはない。だからあまり戦いたくはなかった。そして大半は私と同じように事勿れと思っているようだった。
「もう戻る道はない、貴方達は踏み出したんだ! 逃げる道もない、勝つしかないんだ!」
そんな私達を奮い立たせようと彼らは声を出す。分かってる。このままここにいてもいずれ見つかって殺されることくらい。
「大丈夫皆で力をあわせれば勝てる。だが、勝つために戦うんじゃない。貴方達は何のために反乱軍に加わったんだ! 平穏な生活。それを望んだからこそ今ここにいるんじゃないのか!」
「だったら戦おう、私達はそんな貴方達を支援するためにここまで来たんだ。皆が、一人一人が戦うんだ。望む未来のために」
「大体、領主なんてものは。国なんてものは存在しなかったんだ。昔は皆が農耕に励み、狩りをし、木の実を採取していた。それが、余裕が出てくると人は職人を創り、村を創り、国を創った。そして、村や国では指導者が創られた! 別に必要不可欠だったわけじゃない。その方が効率が良かったから、指導者の下で団結して何かを行う方が皆が豊かに暮らすことができたから創られたに過ぎない」
「でも今はどうだ? 指導者層は裕福に暮らして下のものは飢える……こんなことは間違っている!! 本来の指導者の役割など何一つ果たしていないじゃないか。これなら、無い方が良い。」
「貴方もそう思わないか? なら、無くそう。また一から作り直そう。大変かもしれないけどいつかは変えなくちゃならない。だったら今変えよう。ここにいる皆で変えよう。誰かが変えてくれるのを待つ時間はもう無い。この反乱で倒れたもの達に貴方達ではなく貴方が、一人一人が報いるんだ」
「最後に聞く。私達に付いて来てくれるものは、大声を上げてくれ!!」
奇声ではないかと思われるぐらいの、鼓膜のはちきれんばかりの大声で私は叫ぶ。皆も叫ぶ。何を言っているのかは分からない。ただ、叫ぶ。狂ったように、いや実際に狂っている。
でも、そんなことは関係なかった。この場所が敵に知れてもいい。関係ない。ただ、叫んだ。叫べば何か変わる気がした。変えることができる気がした。
皆は生き生きとしていた。これ以上無いくらいに。別に笑顔ではなかった。顔に皴をたくさん作りながら、顔を真っ赤にしながら、叫ぶときには目を瞑り奇声を上げる。
案の定、ここは敵に発見された。あの奇声を聞きつけた十数名が獣道を見つけ入ってきたのだ。十一名を捕虜としたが何名かには逃げられてしまった。
しかし敵も直ぐ様攻めることはできなかったようだ。それもそうだろう。ここに入る道は狭く身を屈めなければならない獣道しかなく、そこを通って来ようものなら通り抜けた瞬間に先の十一名の様に捕虜にされるか討ち取られるかの二択しかない。
ただ、時間は無かった。今まではこれ以上反乱軍に起ちあがる力はないだろうとなるべく損害の少ない方法で追討していた敵も、きっとなりふりかまわず攻撃してくるだろう。
二日経った。敵が動く気配は無い。実際のところは分からないが少なくとも私が知る限りではあれからは何も起こっていない。敵は諦めたのか。そんなはずは無いだろう。
今夜、ここを脱出し陣を張る。そう、命令が下ったのはその日の暮れだった。準備はまだ整っていない。最初の話では明後日に行われるはずだった。何故予定が早まったのか。
そもそも、勝てるのだろうか。あの時反乱軍は一千を超えていたが、今は百に満たない。もちろん、別の場所に逃げた人たちはいるだろうが、それでも一千、いや五百に届くかどうかも分からない。
それでもやるしかないのだろう。勝たなければ未来は無い。もう、退けない。
彼ら、いやヴィンとエーベル。そう呼ぼう。彼らはそれを望んでいる。ヴィンとエーベルが着てくれたからには勝てるはずだ。きっと……
脱出は成功した。敵が出入り口を簡易的に塞いでいたが、短時間で破壊することができた。やはり、二日では完全に出入り口を封鎖することはできなかったのだろう。
夜明け前には森を抜け、敵の城、ピルブルク城の約三km東に陣を張ることができた。
「皆、よく頑張ってくれた。おかげで計画通りに事は進んでいる。今日は疲れたであろう。交代でゆっくりと休息をとってくれ」
ヴィンがそう言って解散となった。現在の味方はヴィンやエーベルを合わせて百五名で、臨時で三人一組の小隊を三十五個作っている。
小隊の隊長は基本的に軍事従務の経験があるものがなり、その小隊をヴィンとエーベルの小隊が半分ずつ統轄する形になっている。
基本的に同じ村の者同士で小隊を組むのだが、私の村の人は七人だったので、私が余ってしまい、エーベルと他の村の余った人と三人で組むことになった。




