回想
反乱の気運が高まったのは自明の理だった。そしてそれは、いつか爆発する。それも当然のことだ。
ここからそう遠くない場所でそれは起きた。百名ほどの農民が領主の城を包囲したというものだった。
それからというものこの村は参戦するか中立を保つかで意見が分れた様だった。もちろん男達だけでの話し合いだが。
やはり不満は皆あったのだろう。結局参戦することで落ち着いたことには女もそして子供すらも文句を言わなかった。その要因は多分に反乱軍が日を増すごとに多くなっているのを聞いたからというのもあっただろう。
女子供も出ることになった。つまりは、私も。全員村を捨てる覚悟だった。
作物は少し早いものも刈り、保存しておいた肉や酒・塩なども全て持っていくことになった。
一人、村に残る者がいた。付いて来るよう誰もが説得したが頑として聞き入れなかった。
ついに、皆も諦めて一人を残して村を出た。
着いてみると、反乱軍の数は予想以上で、軽く一千を超えていた。
そのためか食料はともかくとして、武具などはほとんどなかった。武器も農耕用の大鎌や使えるかどうかも怪しい弓、使ったことがない私でさえも分かるぐらい質の悪い剣、そして弓の矢にしか見えない槍。
それでも数で押していた。老人と子供以外は女も堀を埋める作業に加わった。
城は堅固なものだったが後一歩だったのではないかと今は思う。
敵の救援軍が来る。それは、幾度かあった。でも、その度に撃退していた。その代わりに味方も減った。そしてまたどこからか増える。来る敵の救援……、その繰り返しだった。
繰り返しでなくなったのは敵が連合で救援に来た時だ。今までとは違っていた。どこを見ても敵騎兵がいた様に見えたのだ。数にすると一千を十個ぐらいだろう。
今思えば、百にも満たなかったかもしれない。だが私達は散々に撃ち破られる。まず、武器がほとんど届いていなかった。向こうは一方的に槍を突いて、馬を駈けさせ次々と味方が倒れていった。
逃げるしかなかった。皆、散り散りになって走った。
途中同じ村の人達と遇ってどこに行くかを話した。村に帰るのはないということになった。安全が確認できないうえ食料も全部持っていっているので利点がないためだ。
途方に暮れていると、何人かの集団が話しかけてきた。良い隠れ場所を見つけたから一緒に来ないか、というものだった。行く当てもなかった私達はその言葉に乗った。
獣道を通る。抜けた先は大きく開けた場所になっていた。
そこで今、暮らしている。
私もようやく回想するだけの余裕が出てきたということなのだろうか。今までは逃げることに必死だった。でも、余裕が出るというのも考え物だ。できれば思い出したくなかった。それでも浮かんでくるのだから仕方がない。
あのまま暮らせばどんなに良かったか。不意に父の言葉を思い出した。「反乱なんて起こしても余計苦しくなる」今はこの言葉がすごく重たい。尤もそういう父も加わることに賛成したのだが。
胸が締め付けられる。私は必死に別のことを考えようと努力した。
ここに逃げてきたのは全員で百人くらいだ。その中に私の家族は含まれていなかった。どこか別の場所へ逃げたのか、逃げたんだ。
私は頭を振り、いつの間にか流れていた涙を拭き、辺りを見渡すことにした。
今ここにいるのは七十人くらいだ。日替わりで三人に一人が食料を探しに行くことになっているからだった。
多くの人は、特に何もすることなく、ただぼんやり空を眺めたり地面を眺めたりと放心しているような感じだ。まじまじと辺りを見つめる私を気にする人なんて一人もいなかった。
獣道の方から音が聞こえた。空耳、一瞬そう思った。思いたかった。でも、違った。いままで放心していた人たちが皆、音の方を向いている。武器を構える準備をしている人もいる。いやだ、まだ死にたくない。
出てきたのは、武装もしていない、二人の男だった。助かった。いや、よく見れば剣は持っているようだった。服装は以前会った旅人を思わせる。少なくとも農民ではない。
でも、こんな地域に、それも獣道を通らなければならないこんな場所に旅人が来るとは思えない。探検家も考えたが、やはり反乱が起こっている地域には来ないだろう。かといって、敵にしては妙だ。剣を持っているとはいえ、たった二人で行動はしないだろう。
「我々は敵ではない」
一人が言った。顔立ちの整った、そしてそれを差し引いてもどこか惹かれるものを持っている。そんな男だった。
「ここの指導者と話がしたい」
また、男が言った。ここに指導者なんていなかった。




