プロローグ「ある日」
やまない雨はない 分からないのはその長さ
やまない雨はない 分からないのはその強さ
やまない雨はない 分からないのは私の死
冷たい風が吹いていた。皆、身体を縮こめて歩いている。
まだ晩秋だ。本当の冬はこれからやってくる。
私は大人数の男達が豚を引き摺るのを血抜きをしながら眺めていた。
羨ましい。私も男だったらあんな風に体を動かしていただろう。この作業は動きが少ないから寒い。自分の顔がかじかんでいるのが分かる。
冬は豚の餌が減るから種付け豚だけを残し、後は屠殺しなければならなかった。そして全て塩漬けにする。そうして春まで乗り越えなくてはならない。分かってはいるが何年やってもあまり好きにはなれなかった。
昼過ぎには最後の処理も終わった。後は片付けをすれば三日連続で続いたこの作業ともお別れだ。
男達はこれから村長の家で会議があるから片付けは女と子供だけでやらなければならない。女は片付け男は会議、やってらんないわ。どこからかそんな声が聞こえた。
家に帰ると父が難しい顔をして座っていた。おそらく会議で何かあったのだろう。
「何かあったの、お父さん」
「アンネか。いや、会議でな村長から話があったんだ。なんでも国からの急な徴発らしくてな、身分を問わず取り上げられるらしい」
「それじゃあ、また生活が苦しくなるの。今でも精一杯なのに」
もうこれ以上は無理だった。終わりの見えない戦争、自由の一つも与えられない私達。
昔のこの時期は食べ物に余裕があり、神に感謝する大きな祭で村がにぎわっていたらしい。
でもそれは数十年前も前の話。疫病で村の人間が半分以下になり貧しくなってからはそれも行われなくなった。その上、最近の大規模な徴発の連続。今年は飢える人も出てくるだろう。
「うむ、代わりに免除される税もあると聞いたがどうも貴族に有利なものばかりらしくてな。我々農民にはあまり関係がないようだ。今は国外と戦争をしているから徴発は仕方のないことなのかもしれんが、貴族は逆に納める税が減って喜んでるそうだ。なんともやりきれんなあ」
「もう、反乱を起こしちゃえばいいのよ。賛同する人はたくさんいるはずだわ」
「滅多な事は言うな。それにそんなことをすれば余計に生活は苦しくなるぞ」
言っても意味のないことは分かってる。ただ言わずにはいられなかった。父だってこのままでいいとは思っていないはずだ。
「でも、このままじゃ戦争が終わっても今と同じかそれ以上に悲惨かのどちらかよ。なら、少し苦しくても――」
「やめないか!! とにかく、当分一食の量を減らさないといけない思う。ただ、それだけだ」
ただ、それだけ。この言葉に父の悔しさは滲み出ていた。
「ごめんなさい」
ただ、一言。
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