【大空へ……】③
お久しぶりです。お元気でしょうか。
あなたに会えなくなってもう二年にもなります。私たちは夫婦であるのに、こんなことがあってよいのでしょうか? いいえ、いいわけがありません! 日々あなたへの想いは募るばかりです。早く会いたい、そう願わずにはいられません。
今回こうしてお手紙を差し上げましたのは、ほかでもありません、私の命の灯火が、遠くないうちに消えてしまうことを悟ったからです。そんな縁起でもないことを、とあなたはお怒りになるでしょうが、どうかお許しください。
私たちは今も、大切なことを隠して生活しています。けれどいつか、真実を明かさねばならない日がやってくるはずです。そのとき、私はおそらくこの地にはいないでしょう。本当ならば、今すぐにでも真実をあの子たちに話して、本当の家族全員で暮らしたい。ですが、あの子たちの身を思えば叶わぬことも存じております。これほど、自分の生まれを恨んだことはありませんでした。
それでも、あなたと出会うことができて本当によかったと思っています。この私がふたりもの赤ちゃんを授かることができたのは、奇跡に等しいことです。あなたと、隼斗と、郁人と過ごした日々は、私にとって揺るぎない、かけがえのないものでした。何のこともない日常の風景も、私たちにとっては大きな冒険でした。それを乗り越えてこられたのは、あなたからもらった勇気のおかげです。
そろそろ、お別れの時間が訪れようとしています。言いたいこと、特に感謝の気持ちは、何千回、何万回口にしても足りないほどです。その上で我が命が尽きようとしていることもまた、天命なのでしょう。ならば私は、それに従うことにします。
けれど、たとえ姿形がなくなろうとも、私はあなた方と共にあります。あなた方が覚えていてくれる限り、私の存在が消えることは決してありません。一緒に笑った、泣いた、怒った、楽しんだ、そんな日々と共に、胸に秘めておいてください。
短い命でしたが、私は自分が不幸だったなどとは微塵も思っていません。むしろ幸せ者です。優しい家族に囲まれて暮らすことができた、世界で一番の幸せ者です。今このときも、胸に湧き上がる感情は悲しみではありません。本当に楽しかった。幸せだった。いえ、今も幸せなのです。
どうか、別れの時が来ても悲しまないで。私は天に召されるのではありません。前にも言いました通り、空になるのです。蒼く澄み渡る空になって、どこまでもどこまでも、あなた方を見守っています。
愛するあなたや子供たちが、いつの日か、力強く羽ばたけますように。そのときは、しっかりと抱き締められますように。あなた方が、ずっと幸せでありますように。
どんなときも、私はあなた方を愛しています。
八神彩子
――風が吹き抜ける。
それを肌に感じながら、まぶたの裏の彼女を見つめる。
「ありがとう。彩子さん……」
ちいさく呟き、瞳を開く。見上げた空は、真っ青だった。
「私も、愛しています」
微笑みと共に、蒼天を映した雫が一粒、零れ落ちた。
【終】




