【晴れ色スタートライン】④
真っ赤な顔をしたと思ったら、予想通り、大慌てで家の中まで走って行ってしまった。
その際ドタドタ、バタッ、ドスン、ゴン、と凄まじい音がして心配だけれど、ここは気を遣って追いかけずにおく。
これでも充分、我慢したほうなのだ。
「…………ふぅ」
風が少し冷たい気がするのは、気のせい……だけではないな。
夏は終わり、秋が来る。
秋。それが来るまでのもう少しの間、いつもと何ら変わらない日々を続けていたい。
そして秋が訪れたら……。
――……
何、何! 何――――っ!
家に急きょ避難した私を襲ったのは、とてつもない大火事!!
顔が尋常じゃないくらい熱い! ちなみに来る途中ぶつけたところも痛い!
「もうヤダよ――――――っ!」
何であんなことするの若葉くん! わけわかんない! 殺す気!? 昔はあんなことしなかったのに!
……と、ここでふと気づく。
「昔は……か」
……私は、ソウくんしか知らない。聡士くんという男の子を、知らない。
そう、まるで知らない人のように見えるから、わからなくなるのだ。何もかもが。
この頬の熱は、頭の熱は、私に何を訴えているの……?
プルルルルッ!
「わっ!」
突然の音に飛び跳ねる。すぐ電子音の正体に思い当たった私は脱力し、受話器を取った。
「はいもしもし、紅林で、」
《Hello,セラちゃんっ!》
……え。この声って……。
「お母さん!?」
《That's right!! 久しぶり! 元気にしてた?》
「うんっ! お母さんも元気でそうよかったー! あ、そうだ。まだイギリスなの? お父さんがヨーロッパのほうに旅に出たんだけど」
《ああ、そのことなんだけどね…………え、ちょっとあなた!》
「え」
《おいセラ大丈夫か! 郁人から色々色々あったってメールがあったんだが平気か!?》
「それは色々色々あったけど……ていうか、何でお父さん!?」
『3日前にやっと母さんに追いついてな。説得は万全だ!』
わけもわからず呆然とする私に、受話器を奪ったまま、お父さんは衝撃的な一言を放った。
《もうすぐ母さんと一緒に日本に帰るからなー!》
「……はいっ!?」
両親が帰ってくる。
一般家庭では至極当然のことなんだろうけど、我が紅林家で、それは大変な意味を持つ。
……どうやら、また嵐がやってくるようです。




