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【晴れ色スタートライン】③

 

「ひとつ、修正しなきゃなんないことがある」




 郁人くんが振り向く。じっと私を見つめてくるけれど、その視線はどこか熱っぽい。




「前にアンタのことタイプじゃないって言ったけど前言撤回。……セラは可愛いと思うよ」



「え」




 その言葉を理解するより先に、郁人くんの視線を若葉くんが遮った。




「悪いけど、彼女は渡さないよ」



「は? いつからセラはアンタのものになったわけ?」




 わ、若葉くんに食って掛かった!?



 目の錯覚かと信じたかったけど、まばたきしても、腕組みをして若葉くんを見上げる挑発的な視線はそこに。




「体力じゃ敵わないけど、俺、頭ならアンタに勝てる気がする。セラは自分の出来ることで頑張ればいいって言ってくれたしな。


 だから、必死で勉強していい成績取って、でもって将来いい医者になって惚れさせてやるから、覚悟しとけよセラ! そんときは姉貴面なんかさせてやんねーからな!」



「――へっ!?」




 すっかり面食らった。固まって動けない私をよそに、「じゃあな!」と一度手を振ったっきり、郁人くんは駆け足で行ってしまう……。




「最後の最後で、爆弾落としてくれたというか。……セラちゃん?」




 ……何だろう、これ。ドキドキする。


 ときめいちゃったかな? 一生懸命頑張ろうとする弟分にキュンとして!




「……セラちゃん」



「あ、はいっ、何でしょ……きゃっ!」




 軽く身体を押されて、とん、と壁に背がつく。


 気づいたら、若葉くんの両腕の中に閉じ込められていた。


 後ろは壁。逃げられん……というか、何でこう都合よく壁があるんですか!!




「若葉くん、顔近い近い!」



「駄目。僕を見て」




 押し付ける腕はそのまま、手首の動きだけで顔を正面に戻される。


 至近距離で彼の顔を見てしまったときには、ポンッ、と頭が爆発しそうだった。




「……近付けばそうなるのに、どうして気づかないかなぁ」



「よよよ、よくわかりませんが、怒ってらっしゃいますか??」



「ええ、とても。仕方ないんだからね。今までずっと郁人くんと2人っきりで暮らして来てたんだし。


 僕だって色々我慢してたんだから、少しくらいワガママ聞いてもらってもいいと思わない?」



「……え? ワガママ?」




 身の危険を感じるのは私だけですか。



 ぐいっと若葉くんの顔が近付く。



 いやもうほんとやめて!? さっきので充分近かったのに限界距離ですよ!? もうやだ――!




「……ふっ」



「…………は?」




 吹き出した。……吹き出しましたね若葉くん?




「もしかして、意地悪しすぎた?」



「ももも、もしかしても何も意地悪です! 若葉くんのバカ!!」



「ごめんごめん。でもそろそろ慣れてもらわないと、僕も困るから」



「何に!?」



「……知りたい?」




 マジな空気が和らいだと思えば、すぐにこれだよ。こうやって意地悪するんだからなもー若葉くんは。




「いいえ! どうせ教えてくれないんでしょ!」




 ぷい、と顔を背ける。と、くすっと笑い声がして。




「いいよ。教えてあげる」




 思わず顔を戻したその瞬間――固まってしまった。



 私を襲ったのは、柔らかくて、熱い感触。



 それが、触れるか触れないかという、唇の端に。




「……わかった?」




 ……ほんの少し。



 ほんの少し風が吹いたような、そんな軽いキス。



 だけどその風に、小枝の葉っぱを落とされたような気分だった。




「っ! ごめんなさいよくわかりましたありがとうございますそれではさようならっ!」




 ――気づけば、全速力で走り出していた。

 

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