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【月夜の涙】①

 

 真っ暗闇に赤色灯が慌しく光り始めたのは、それから間もなくのこと。



 最後に、宗雄さんを乗せたパトカーが走り出す。




「――事情はわかりました。しかし……」




 八神さんから事情を聞いたらしい刑事さんが、私たちを睨んだ。


 ……というか、主に若葉くんを。




「聡士~? お前、まーたやってくれちゃったらしいなぁ?」



「我慢しろって言うなら無理な話だよ。今日は満月だから」



「そう簡単に言うけどなぁ、昔お前に殴られた研究者が、三日三晩目を覚まさなかったことを忘れたわけじゃないだろう! 少しは進歩したらどうなんだ!」



「じゃあ言うけどね! そっちがちゃんと仕事しないからこうやって命の危険に晒されたんだろ! セラちゃんのためだったらいつもの1000倍はやる気出すって言ったのはどこの口!?」



「あのなぁ、こっちだって証拠とか令状とか色々と手続きがあるんだ! だから、」



「だから今日は無理だったって言うの? へぇそう! 父さんならもっとやってくれると思ったのにな! 幻滅したよ!」



「ぐはぁッ!」




 見るからに大ダメージを被った刑事さんをよそに、すたすたと戻ってきた若葉くんへ、声をかけてみる。




「若葉くん、えっと……?」



「ああ、セラちゃんは会ったことなかったっけ。アレ、若葉芳一。うちの馬鹿父」



「…………」




 恐る恐る、若葉くんのお父さん……芳一さんの様子をうかがうと。




「……うっ、うっ、うっ。そんなに怒らなくてもいいじゃないか、聡士……」




 泣いていた!




「ちょっとあなた、泣いてるヒマなんてないでしょ!」



「でも、みやこぉ~!」



「つべこべ言わずに署に戻って、セラちゃんたちを苦しめたにっくき犯人たちを取り調べて来なさい!」




 ……事態を聞き、駆けつけてきてくれた都おばさんに叱りつけられ。




「ううっ、父さん頑張って来るからな。嫌わないでおくれよ、聡士~!」




 泣く泣く覆面パトカーに乗り込む芳一さん。



 若葉くんの、長――いため息が零れた。




「……ユニークな刑事さんですね」



「いいですよ八神さん、気を遣わなくても」




 バッサリと斬り捨てる辺り、手馴れている。日常茶飯事なのだろう……。




「八神さんは、今からどうなさるんですか?」




 若葉くんの問いに、八神さんは少し考え込む。




「せっかくの感動に浸りたいんですが……参考人として明日からお呼びがかかるかもしれませんし、溜まっている仕事をしないと」



「仕事?」



「霧島ハツネさん……彩子さんのお母様の往診です」




 やわらかく微笑んで、八神さんは家の中へと入っていく。


 隼斗と郁人くんが顔を見合わせ、その後に続く。


 私と若葉くんが思っていることも、同じだった。

 

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