【厄災を断ち切れ!】②
「……なぁおい、和久井……」
「ああ、もう思う存分やっていいぞ朝桐!」
「よし来た、任せろ――――っ!!」
朝桐くんを筆頭に、集団の中に突っ込んでいく3人。
「大丈夫。絶対に守るから」
私の前に立った若葉くんは、郁人くんを背に庇った隼斗へ何かを投げ渡す。
……隼斗の竹刀だ!
「今までサボってたから、怖気づいたとか言わないよな?」
「まさか。俺が何のために剣道始めたと思ってやがる」
鼻を鳴らした隼斗は、向かってくる男を真っ直ぐに捉え、
「家族を守るためだ!!」
若葉くんが笑った瞬間、ふたつの嵐が吹きすさんだ。
「ぐぅっ!!」
あちこちで繰り広げられる乱闘。
「がぁああっ!?」
次々と殴り飛ばされる男たち。
「がーっはっはっは! ここで見せ場を作れば俺は無敵、モテないダメ男返上だ! セラちゃんにも振り向いてもらえるぞ!
よっしそこのオッサンかかってこいやぁ!」
かかってこいと言いつつ、自ら獲物に飛びかかっている……。
「それとこれとは話が別だがな」
若葉くんにバッサリ斬り捨てられているとは知らずに。
「まぁ何にせよ、やるじゃないか、お前の友達…………ふっ!」
正面の男を一発で畳に沈める若葉くん。
「馬鹿だけどな。だが……っ!」
それに対し、隼斗は左方からの敵に反撃をし、
「仲間、だっ!!」
素早く右方にも竹刀を叩き込む。
呻き声を上げて伸びる男、計3人。
「どうした犬野郎? ただの人間と比べて大したことねぇみたいだが?」
「ふ…………全力の10分の1だからだ!」
若葉くんの口端が上がったのを合図に、2人は走り出す。
「はあああっ!」
「おおおっ!」
凄まじくも華麗な竹刀さばきは、次々と男たちをなぎ倒していく。
決定的な瞬間が訪れるのは、すぐのことだった。
「城ヶ崎サン! もう限界だ! 人が残っちゃいね……ぐっ!!」
男たちをまとめていたリーダーが、隼斗にフッ飛ばされる。
宗雄さんが我に返ったときには、男はすでに畳の上。
「く……そぉっ!! どけぇっ! 小娘ッ!!」
「きゃっ!?」
がむしゃらに向かってきた彼は私を突き飛ばし……その先の郁人くんへと突進する。
「野郎っ……郁人を人質にする気か!!」
顔を真っ赤に上気させた隼斗だが、宗雄さんの手に鈍く光るものを見つけると、血相を変える。
「待て……っ!」
「知るか!! これ以上はなりふり構ってられん!!」
隼斗が駆けつけるより先に、郁人くんへ迫る宗雄さん……
「――おやめなさい」
それよりも先に、郁人くんの前に立ちはだかる人影。
彼は手首の動きひとつで宗雄さんの進行軌道を逸らし、体勢を崩したその腕を捻り上げた。
「武道の心得を持つものが、彼らだけではないとおわかりのはずでは?」
宗雄さんを捕縛していたのは、八神さん。
「それでも向かってくるということは……」
スッと瞳を細めた彼は、宗雄さんの手から零れ落ちた『それ』を握り締め――身動きできない宗雄さんの頚動脈に、押し当てる。
「どうやら、解体されたいようですね……?」
銀色に光る『それ』は紛れもなく……メス。
「……義兄さん、パッと見銃刀法違反」
「正当防衛ですのでご心配なく」
「……宗雄さんが哀れね」
これにはさすがの歩美さんも苦笑いだ。
「……ま、待て八神!」
「何を待てばいいんでしょう?」
「お前、医者がそんなことをしていいと思っているのか!?」
「同じ医者の風上にも置けない人に言われたくありませんが……
医者である以前に私は1人の夫であり、父親だ。家族を侮辱する者は誰であろうと許さない!」
言葉と共に、メスが振り上げられる……。
「八神さん!?」
「父さんっ!?」
「や、やめろ……うわああああああっ!!!」
銀の刃が宗雄さん目がけて走る。
――かと思ったら、メスは八神さんの手から零れ落ち。
「ふっ!」
掛け声と共に後ろに引かれた拳が……宗雄さんの顔面にブチ込まれる!!
「……ぶふっ!!」
ぺしゃり、と宗雄さんの鼻が潰れる。
メスが突き刺さった畳に撃沈する宗雄さん。
拳を引いて、八神さんが小さく息を吐く。
「人の命を守る道具で、人を傷つけるわけがないだろう」
凛と宣言する姿は、私たちに待ちわびた安堵をもたらした。
「八神さん!」
「おじさんっ!」
「よく頑張ってくれたね……君たち」
若葉くんや朝桐くんたちをぐるりと見渡した八神さんは、隼斗と郁人くんを振り返る。
「隼斗くん……遅くなって悪かった。もう大丈夫だよ。郁人くんも」
「父さん……っ!」
泣く郁人くんは初めてじゃなかったけど。
「っ……!」
泣きそうな城ヶ崎は、見たことがなかった。
「辛い思いをさせて、ごめんね……」
「……馬鹿、謝るんじゃねぇよ……」
「そうだね。……ありがとう。君たちは私と彩子さんの、自慢の息子だ」
大きく腕を広げた八神さんは、2人を力強く抱き締めた。今まで出来なかった分を、埋めるかのように。
腕の中でうずくまる2人。
それは生まれて初めて父の腕の中で、彼らが子供として泣くことを許された瞬間だった。




