【厄災を断ち切れ!】①
宗雄さんの動揺は、私にも感染した。
その女性は、前に写真で目にした彼女そのものだったから。
「あら、化粧取っただけなのに仮にも自分の奥さんの顔も忘れちゃったの?
超サイテー。だからアンタは威張るだけのチンケな男なのよ狸野郎」
「……歩美ちゃん」
八神さんが声を漏らすと、宗雄さんに辛辣な言葉を浴びせていた彼女は一変、明るい笑みを浮かべた。
「ハーイ、久しぶり! ……って、セラちゃんたちにこの姿は初めましてかな?
あたしは霧島歩美! 彩子の妹で、隼斗と郁人の叔母さんでーっす!」
化粧っけのないその笑みは、艶やかというより温かなもの。
「これでいいのよね、真之義兄さん」
「ああ」
「どういうことだ、貴様らっ!!」
「あら、決まってるでしょ? アンタの奥さんは最初からいなかったって話。
当然よねー。アンタ、残念すぎる男だもの。誰が好き好んで結婚しますか」
ふふんと笑みを浮かべ、宗雄さんを見下す歩美さん。
「『さゆり』はアンタに近付くためのあたしの仮の姿よ。あたしたち姉妹はよく似てるから、変装しなきゃバレると思ってね」
「謀ったな……」
「アンタをこの家から追い出すためよ、何だってするわ。
お金はともかく、姉さんたちの大事な宝物にまで手を出して……同じ人間とは思えない」
歩美さんの視線を受け、隼斗が頷く。やがて彼が懐から取り出したのは、小さな機械。
「ねーえ宗雄さん、ソレが何だかわかる? そーそーボイスレコーダー」
「……っ!? お前っ!」
「わかった? なら話は早いわね。さっきまでの会話……レコッちゃった♪」
てへ☆ と舌を出す歩美さんに、宗雄さんは呆然とするしかない。
「それじゃあまさか、あれは……!」
「芝居だ。アンタに必要なことを全部吐かせるためのな。これを警察に突き出したらどうなると思う?」
全てを理解したらしい宗雄さんが、恨めしそうにと歯軋りをする。
「このまま捕まってたまるものか……! 手加減など一切必要ない! やってしまえ!」
捕まりたくないのはみな同じ。
残っていた男たちが、雄たけびを上げて飛び掛ってくる。




