【埋もれ木に花咲く】②
「――おりゃあああっっ!!!」
ゴンッ!! と凄まじい音と共に、吹っ飛ぶ宗雄さん。
誰もが唖然とする。
宗雄さんの横っ面を直撃したのは、なんと郁人くんの右ストレートだったのだ。
「黙ってればひ弱だのなんだの好き放題言いやがって……チビと女顔気にしてる俺への当て付けか! コンプレックス増やして地味に嫌がらせかふざけんな! 俺だって喧嘩くらいやってやる!!」
矢継ぎ早にまくし立てた郁人くんは、きびすを返し颯爽と戻ってくる。
「おいっ、クソ兄貴!」
その足で隼斗に向かって行ったかと思うと……。
「ふざけてんじゃねぇぞこの馬鹿――ッ!」
その右ストレートが、今度は隼斗を襲った。
直撃を食らった隼斗が畳に叩きつけられる。
「きゃーっ!! 郁人くん何してるの!」
「隙を見せたら止められる。やられる前にやっただけだ」
「いやそれ堂々と言うことじゃないから! 隼斗大丈夫!?」
「情けねぇ……こんなんでブッ倒れるほどヤワだったか、うちの兄貴は?」
私に上体を起こされた隼斗が、郁人くんを見上げる。けれど生気のない瞳のまま、無言のまま。
「へぇ、そう。無視? ――ざけんのも大概にしろよコラァアアアッ!!」
再度強烈な衝撃が隼斗を襲う。しかも2発!
「きゃああああっ! 隼斗っ!!」
私が手を伸ばす前に、郁人くんが胸倉を掴む。
「……立てよ」
その声音は、聞いたことがないくらい低く、鋭い。
「アンタ、俺の攻撃なんか屁でもねぇはずだろ? 何倒れてんだよ」
問い詰められても、隼斗は物言わぬまま。
「……そういうところがガキだっつーんだよッ!
勝手に突き放してんじゃねぇ! 勝手に独りで抱え込むんじゃねぇ!
セラだってなぁ、アンタのこと心配してたんだよ! 泣きそうな顔で落ち込んでたんだよ! アンタは、そんな顔させるようなことをしたんだよ!
俺に殴られて起き上がれないくらい弱ってんなら助けを呼べよ! 来てくれるヤツがいねぇとか思ってたらもっかい殴るかんな!
アンタには友達がいるんだろ! そういう人たちの思いを無駄にすることがどんなにひどいことか知れっ、このクソ兄貴!!」
嵐のごとき叫びが響き渡ると、ウソのような静けさが部屋を包み込む。
「郁人くん……気持ちは嬉しいけど、ちょっと乱暴な気が……」
「いくらセラの頼みでも、イラつくもんはイラつくの! 大体、気に入らねぇことがあるなら殴り返してくるなり何なり……」
ここで、言葉を切る郁人くん。
まばたきをひとつして、胸倉を掴んだ右手首へ、ふいに手を添えた隼斗を見つめる。
……フッ、と、笑い声が聞こえた直後。
――ゴッ!!
華麗な右ストレートが、郁人くんを直撃。
「きゃあああっ!! 郁人くんっ!?」
隼斗が、郁人くんを殴り飛ばした。
それだけでも驚きなのに、誰が予想できただろうか。
「……ふ……くく……はははははっ!!」
「え……」
……あの隼斗が、高らかに笑い声を上げるなんて。
「俺をブン殴るとは、少し見ない間にずいぶんと利口になったじゃねぇか、郁人」
さっきまでが幻だったように、真っ直ぐ郁人くんを見つめる瞳。
隼斗は今一度、拳を郁人くんの頭にぶつけた。今度は軽く。
「いだっ」
「結構効いたぜ? 目が覚めた。……サンキュ」
それは、今まで人形のようだった人物とは思えないくらい、血の通った笑みだった。
「ほら、立て」
郁人くんの手を取った隼斗は、それからわざとらしく肩を竦めてみせた。
「ったく、気が早いっつーの。俺たちに任せておけば心配ねぇのに」
「……『俺たち』?」
ニッと口角を上げた隼斗が、八神さんを振り返る。
八神さんは、力強く頷いた。
「……どういう、ことだ。隼斗、お前は意識がなかったはずじゃ……。
っ! さゆりは!? アイツはどこに行った!?」
「もー、騒がしいわねぇ。ここにいるわよ」
「! おいさゆり、どういうことだ! 隼斗を痛めつけたんじゃ……」
振り返った宗雄さんが、硬直する。
「痛めつけるー? 何であたしがそんなことしなきゃいけないわけ?」
次いで私も驚愕する。
部屋に入ってきたのは1人の女性。けれど、予想とはまったく異なった容姿の持ち主だった。
「まさか、そんな…………お前は、彩子?」




