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【後悔の先に見つめるもの】③

 

 セラちゃんが出て行ってから、長い沈黙が流れた。


 この状況を、自分がどうにか出来るなんて思っちゃいないけど。




「八神さん、言いたいことは、ちゃんと言ったほうがいいですよ」



「……私は、彼らの人生を狂わせました。何も言い訳出来ません」



「違います。一緒にいたいなら、そう言ったほうがいいということです」




 不意に、八神さんが顔を上げる。


 暗い影を落としていても、真っ赤に腫れたその目が表すのは、疑いようのない彼の本心だ。




「本当に好きだったんですね。彩子さんたちのこと」




 だからこそ涙を流し、自らを責め続けてきたのだ。


 そんな彼へ向き直り、居住まいを正す。




「今回の事件、ここに患者さんが搬送されてきたのは1回や2回ではないと聞きます。


 それが城ヶ崎の要請によるものなら……郁人くんのときのように、なぜ止めなかったんですか?


 危険を省みない城ヶ崎を、あなたは放っておけないはずでしょう?」



「……制止を聞かない隼斗くんを、咎めることが出来なかったからです。彼はすべてを知ってしまったから」



「何を『知ってしまった』んですか?」



「……私たち大人の、混沌とした真実です。彼がそれをいつ知ったのか、私にはわかりません。ただまだ歳若い彼にはショックだったはずです。


 それでも隼斗くんは一生懸命動いてくれた。私は彼に甘えてしまった……その様がこれです」



「……やっぱりあなたは、城ヶ崎に会いに行くべきです」



「……どうして」



「あなたが床に手をつくことを、城ヶ崎はきっと望みません。だからせめて、感謝の気持ちを伝えるべきではないのですか?」



「……こんな私が、ですか。彼ら家族を引き離してしまった、彩子さんを死なせてしまった、何も出来なかった私が……!」



「だからと言って何もしないのとは、話が違います!」



「……聡士くんっ!?」




 悲鳴のような制止が聞こえた。けれど僕は構わず、右の眼球を掴む。


 周りから見ればそれはそれはグロテスクな光景だろうけど、何のことはない。


 指先に薄い膜を感じると、それを掴み、引き抜く。突如とした行動が幕を閉じると……。




「――聡士くん!? その目は……!」



「わかりますか。僕の目の色が」




 息を呑み、食い入るように僕を見つめる八神さんを、真っ直ぐに捉える。




「これは、生まれつきの特異体質のうちのひとつです。さまざまな人外現象が僕の身に起きていて、僕は他人から忌み嫌われていました。


 だから僕も人を嫌いました。心を閉ざした時期がありました。けれど、心の底では誰かに助けを求めていた……。


 それが『家族』なんです。一番身近な、信頼できる人なんです」



「……!」



「城ヶ崎にとって、あなたは家族同然だった。心の奥底では、あなたに助けを求めているんです。


 体裁なんてどうでもいいんです! あなたがどんな罪を背負っていようと、城ヶ崎があなたを信じていることに意味がある!


 あなたは、彼の信頼を裏切るんですか!」




 堪えかねたように立ち上がる八神さん。


 仕事机へ歩いて行くと、そこに置かれた大きなカバンへおもむろに荷物を詰め始めた。




「……私は、弱い人間です」



「どこに、行かれるんですか」



「往診です。まだ仕事が残っているので」




 苛立ちを感じなかったと言えばウソになるが、僕は黙って、八神さんの背中を見つめる。




「……私は昔から頼りなくて、彩子さんにも迷惑をかけていました。こんな私が隼斗くんを助けられるなんて、到底思えません」




 彼は手を止めた。じっと黙り込んでいるようだったけれど、やがてゆっくりと振り返る。




「本当に私は鈍くさいんです。手が足りないので、もしよろしければ、往診を手伝ってくださいませんか?」




 力がなくとも、乾いていても、その微笑ひとつが、頭の熱をスーッと冷ました。



 僕は深呼吸をして、そっと頷く。




「もちろんです」

 

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