【夕暮れの戦慄】④
八神医院で郁人くんに知らされたことは、衝撃的なことだった。
「……彼が、昨日の?」
ロビーの隣にある、待ち合いスペースを兼ねた廊下の椅子。郁人くんはそこに座って、俯いたまま頷く。
「そうだね。彼で間違いないよ」
若葉くんも同意した。ならば、揺るがぬ事実なのだろう。
「堀川がセラを襲ったなんて……俺のせいって、何だよ」
郁人くんのクラスメイトが、事件に関わっていた。
解決どころか、さらに謎を深める要素ばかりが横行する。私も、混乱してくるよ。
でもこういうときだからこそ、しっかりしなきゃ。
「あのね郁人くん、城ヶ崎のことなんだけど、やっぱり無実の罪を着せられてるみたい」
「兄貴が?」
「被害者の人に偶然話を聞いたんだけど、暴行するどころか、助けてくれたんだって」
「……そうか」
一言だけ呟いて、郁人くんは静かに立ち上がった。
「郁人くん? どこに行くの?」
「……もう、帰る」
「堀川くんの治療が終わるの、待たなくてもいいの?」
「タダ先生が治療してるんだろ。だったらいにくいし。……とにかく、ここを出よう」
私は若葉くんと顔を見合わせ、歩き出す郁人くんに続いた。
押し黙った郁人くんだったけど、八神医院を出ると同時に口火を切る。
「……今回の暴行事件、俺に関係があるような気がするんだ。周りの人たちはみんな何かしら関わってる。兄貴も、堀川も……タダ先生も」
「ねぇ郁人くん、明日、八神さんに話を聞きに行ってみない?」
「……何で」
「事情を聞ける人の中で一番大人だし、今は一番冷静に対処してくれると思うの」
「でも、先生は今回の件に関わるなって」
「言ってたんなら、なおさら行くべきよ。今日は郁人くんの命まで危険に晒されたの。黙ってていい話じゃないと思うわ」
「…………」
私の言葉に、郁人くんは小さく頷いてくれた。
――このときの私たちは、何も知らなかったのだ。
本当に何も知らない、子供だったのだ――……




