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【夕暮れの戦慄】②

 

 目的地に着いて早々、私は震え上がってしまった。


 なぜなら、そこにお住まいの方に文字通り吠え立てられてしまったから。




「ギャンギャンッ!」



「ひっ!」



「セラちゃん、そんなに怖がらなくても平気。小型犬だよ」



「……本当に?」



「うん。トイプードルだし」




 それは安心していいのか、悪いのか。だってトイプードルって……。




「グルルル……」



「若葉くん、めっちゃ睨んでます。怖いです」



「うーん……」




 少し腕組みをした若葉くんは、その子に近付いて行って……。




「何をそんなに警戒しているの? 怖い顔をして、君も困った子だね……」



「――!!!」




 犬に話しかけた!? しかもなぜか色気駄々漏れ!




「キュウン……」



「ちょっと待って私と態度違くない!?」



「……グルル」



「あ、ごめんなさい出しゃばりました……じゃなくてそこ通してもらわないと帰れないんだって!」



「ギャンギャンギャンッ!」




 ……何でこんなことになっているのか、簡単に整理します。



 まず第一に、郁人くんが心配で八神医院へ向かいました。しかし会えずじまい。


 次に、八神さんに会えないか試みました。これも診療中のため会えずじまい。


 仕方なく帰ろうとしたときです、看護師さんの悲痛な声を聞いたのは……。



 こうして私たちは、以前入院していた患者さんが忘れていったというアルバムを届けに来たわけなのです。


 が、通してもらえず途方に暮れていると……。




「こらクルミ。お客さんに吠えるなって言ってるだろうが」



「あれ、どこかで聞いたような声が…………ああっ!」




 そうだ、そうだよ!


 目先のことで気がつかなかったけど、この一戸建てのお宅!




「ああ、君は昨日の」



「知り合い?」



「うん。昨日、荷物を運ばせてもらった人」



「その節はどうも。それで、うちに何か?」



「八神医院の看護師さんから荷物を預かったので、届けに来ました。どうぞ」




 ずっと手に持っていた紙袋を渡す。男性は中を確認し、思い出したように頷いた。




「ああこれは、娘のアルバムです。1冊丸ごとなくなってたから探してたんですよ。


 入院したときに持って行ったままだったんですね。わざわざありがとうございます」



「あ、いえいえ」




 男性につられ、反射的にお辞儀をしてしまった私。


 顔を上げた男性は、なぜかいっそう笑みを深めていた。




「光涼高校の生徒さんは、みんな親切なんですね」



「え、私以外にも、誰か……?」



「お恥ずかしい話ですが……実は僕、仕事で遅くなった日に襲われてしまいまして」



「……それって!」




 例の暴行事件!?




「気をつけようと思ってはいたんですがね……それで、ちょうど危ないときにある青年が現れたんです。


 動けなかったんですけど、意識はありましたからはっきり覚えてます。光涼の生徒さんです。


 彼は最初、後は自分がやるからと言って暴行していた人たちを立ち去らせたんですが、倒れた僕を見るなり、救急車を呼んで、肩を貸してくれましてね。


『知り合いの腕のいい医師に連絡したから、もう少し頑張れ』って励ましてくれたんですよ」




 八神さんの知り合いって……!




「あのすみません! その人って、制服のネクタイの色、何色でした!?」



「ネクタイ……確か、青……だったかな。そういえば、光涼高校は学年ごとに色が違うんでしたよね。君たちと同じ学年の人ですか」



「…………」




 これってもしかしなくても城ヶ崎。思わぬところで、情報ゲットとなるとは。


 しかも、かなりのグッドニュース!




「ええと……彼とはご友人で?」



「はいそうです! 部活も同じなんですよ!」



「そうなんですか。もし良かったら、よろしくお伝えください。近々お礼に伺いますと」



「いえいえっ! こちらこそありがとうございます。彼には必ず伝えますから。それじゃあ、失礼します!」




 もう一度男性にお辞儀をし、きびすを返す。足取りは行きよりも軽い。




「……若葉くん、すごい事実発覚ね」



「そうだね。これは大きな情報かも」



「早く郁人くんに伝えなきゃ。どこにいるの……?」

 

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