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【サイレンス・サイレン】②

 

「……なるほど。それは確かに、病み上がりの俺にとっちゃ意識フッ飛びかねない事態だな殺す気か兄貴」




 少し考えるような後、郁人くんが顔を上げる。




「その事件の被害者っぽい人なら、八神医院に運ばれてきたことがある」



「本当!?」



「ああ。俺が入院してた頃だから、まだ話が大きくなってないときだな。


 ほとんどが軽症だったけど……なにせ頻発するもんだから、地味にタダ先生の神経削って…………タダ、先生……?」



「ねぇ、その人たちに話を聞いたら、何かわかるんじゃ……って」




 それまで熱心に話をしていた郁人くんが、呆けたように地面を見つめる姿。私は少なからず疑問を覚える。




「郁人くん、どうしたの?」



「……え、あ、悪い。何だっけ?」



「その患者さんに事情を聞いたら、城ヶ崎のことが何かわかると思うの。だから今から八神医院に行こうと思うって話なんだけど……」



「駄目だっ!!」




 のどがヒュッと掠れた音を出す。



 叫んだ郁人くん自身も予想外だったようで、だけどすぐに唇を引き結ぶ。




「……セラは、昨日怖い思いをしたばっかだろ。無理して動かなくてもいい」



「でも、お兄さんのことだよ? 少しでも解決は早いほうがいいと思うわ」



「タダ先生には俺が話を聞いておく! セラは早く家に帰ってじっとしてろ。……おい、元眼鏡、セラを頼んだぞ」



「ちょ、待って、郁人くん!」




 呼び留めても、背中はどんどん遠ざかるだけ。彼は聞く耳を持たず、結局1人で行ってしまった。




「どうも変だね、郁人くん」



「うん……昨日は別に変わった様子はなかったって、都おばさんは言ってたんだけどなぁ……」




 そうは言っても、置き去りにされたという事実は確かに残っている。


 途方に暮れて見上げた青空。どこか、白けているような気がしてならなかった――……






  ☆ ★ ☆ ★






 

「いつまでそうやって反抗しているつもりだ?」




 ……沈黙。いくらやってもこの調子だ。埒が明かない。


 宗雄はため息をついて、部屋の前から立ち去ることにした。


 廊下を3歩も行かぬうちに女が姿を現す。




「さゆりか」



「どうなんです~? 隼斗くんの様子」



「相変わらず、だんまりだ」



「今回は大きな喧嘩だったみたいねぇ。思ったよりも大騒ぎになっちゃってー」



「まったくだ。アイツにはほとほと呆れ果てる。よくもこう次から次へと反抗するものだ」




 小さく毒づき、顔を逸らす。その際舌打ちを忘れない。




「……大丈夫なの? 病院」



「無傷、というわけにはいかんだろう。しょうもない世の中だ。子の過失は親の過失も同然」



「許してあげたら? お父さんの仕事を手伝おうとしたのかもしれないわよ?」



「笑わせるな。あんなハナタレ小僧が首を突っ込んで上手くやっていけるほど、甘い世界ではない」



「……でも、多分気づいてるわよ、あの子」




 さゆりの言葉に、宗雄は舌打ちをまたひとつ。




「わかっている。だからこそ、反抗しているのだろう。困った息子だ」



「どうするの?」



「……このまま反抗し続けるのなら、何か考えなければならないな」

 

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