【それぞれの思い】②
静かな月明かりの下、庭に出て、夜風に当たりながら物思いにふける。
琥珀色の光を見ていると落ち着かないのは体質だから仕方ないので、最近は眠れない夜を過ごしていた。
どうせ時間を持て余すなら、彼女のことを考えるようにしている。
彼女の焦ったり、困ったり、赤くなったりしている顔はかわいい。うん、彼女はものすごくかわいい。
上機嫌のまま考えを巡らせていると、ずいぶん昔のことにまで行き着いてしまった。
会えなかったとき、京都で思い出していた幼い彼女との記憶。
とても幸せな時間だったことに間違いはないのだが、途中である問題が発生してしまった。
「最近、名前呼んでもらってない……」
……これは深刻な問題だ。
彼女の名前を呼んで、自分だけ満足していた。しかし気づいてしまったのだ。
願わくば、昔のように名前を呼んでほしい。でも。
「言えないよな……」
呼んでくれと言えば、彼女は呼んでくれるかもしれない。
だがそれでは駄目なのだ。そこは自分の変なクセで、大切な彼女を独り占めしたいのに、強制するのは嫌だという点。相反する感情がぶつかって、悩みの種である。
追い打ちをかけるかのごとく、冷えた夜風が吹き付ける。
このままでは風邪を引いてしまうから部屋に戻らなければならない。
そうは思うが、理不尽な情勢にどうせなら引いてしまえと半ばヤケになる。
そうすれば、彼女が優しく看病してくれるかなとか……寒くても、抱き締めたら温かいだろうな、とか考えて、激しく頭を振った。
何を考えているのだ。それではただ、迷惑をかけまくっているだけだろうが!
「……ずいぶん依存してるな、僕も」
ゆっくりと息を吐く。再度夜風が吹いた。
夜空を仰ぐと、やけに白い半月がぼんやりと浮かんでいる。その青白さは、病的と言えるほど。
「妙な輝きだ。……気のせいだといいけれど」
そこで、ようやく踵を返す。
――あと少し。
何があろうと、己の中の獣をねじ伏せるだけ。




