【終わらない謎かけ】②
朱にかすむ夕陽が、西の空に沈み始める。
「瓦屋根に石塀。あそこに見えるのは縁側? ……若葉くん、目の前にものすごい日本家屋が」
「ホント、お城みたいに立派だよね」
「城ヶ崎ってこんなすごいお家に住んでるんだ……」
「あら? 珍しいお客様ね。もしかして隼斗くんのオトモダチ?」
ゆったりと艶のある声に振り返る。
有名ブランドのバッグを提げた20代後半くらいの美人さんが、首を傾げているところだった。
「はい! プリントを届けに来ました!」
「わざわざありがとね。せっかくだし上がって上がってー」
美人さんは慣れた手つきで門の鍵を開け、私たちを迎え入れてくれた。
――……
「お待たせー。緑茶しかないけどいーい?」
「どうぞお構いなく!」
広い座敷の客間に通され数分。お盆を片手にやってきた美人さんは、おじいさんを連れていた。
「よくいらっしゃいましたな。私は隼斗の祖父。あいにく孫は人に会いたくないようで、このような老いぼれが迎えること、ご容赦願いたい」
「ご、ご丁寧にありがとうございます!」
「カタイいですよーお義父様。もうちょっと砕けてお話しなきゃ。
ハーイ! あたしは隼斗くんのお母さんになる予定の、さゆりって言いまーす。さゆちゃんって呼んでね!」
……お母さんになる予定? じゃあこの人は朝桐くんたちが言っていた、城ヶ崎のお父さんの再婚相手……。
合点はいったのに、それはある不審を助長させるという矛盾を生み出した。
「私は紅林瀬良と言います。そしてこちらは……」
「若葉聡士です。隼斗さんとはクラスが違うんですが、仲良くさせていただいています」
「セラちゃんに聡士くんかぁ。いいなあ隼斗くん。こんな可愛くてカッコいいオトモダチがいて。ねーえ、あたしともオトモダチにならない?」
「……さゆりさん、お客様ですぞ。はしたない」
「あ、ごめんなさーい!」
注意され、それでもクスクス笑いながらさゆりさんは身を引く。……よくこれで縁談がまとまったものだ。
「わざわざお越しいただき大変申し訳ないが、今日のところはお帰りください」
「……どうしても会えませんか」
「なぜ」
「大切な友人なんです。元気な姿が見たくて」
渋い顔でおじいさんが口を開こうとした、そのときだ。
「いいじゃないですかー。気分転換になるかもしれないでしょ?」
おじいさんが黙り込む。表情は険しいままだったけれど、ややあって静かに言った。
「……いいでしょう」
「本当ですか!」
「ただし、隼斗の意思が優先です。そこは履き違えなさらないよう。来なさい」
「はいっ!」




