【終わらない謎かけ】①
「やるな、お前」
私にプリントの束を手渡しながら、土屋先生がこんなことを仰いました。
「何のことですか?」
「聡士のことだ。アイツ、最近はものの見事に空回ってばかりだったが、遂にやったらしいな」
「若葉くん、何かに成功したんですか」
私の言葉に土屋先生はなぜか苦笑い。
「まぁ、お前といるだけでハッピーになれるようなおめでたい男だ。広い心で受け入れてやってくれ」
「もちろんです先生。いつだって私は若葉くんどーんと来いです!」
「はっは。それをアイツの前で言ってやれ。きっと泣いて喜ぶ」
「そ、そんなにですか?」
「ああ。もし違ってたら、俺はモノフルオロ酢酸ナトリウムを服薬して光涼商店街を練り歩いてやるよ」
「も、ものふ……?」
「モノフルオロ酢酸ナトリウム。殺鼠剤だ」
「殺鼠剤!? そんなの服薬して大丈夫なんですか!」
「全然大丈夫じゃない。だからそれほど自信がある話だってことだ。よいこはくれぐれも実行に移さないように」
「は、はぁ……」
例が危険すぎてヒヤッとしました。
「話もプリントも以上。あとはそれを各班ごとに配って、実験の準備をしておけと伝えてくれ」
「わかりました。でも先生、ひとついいですか?」
「なんだ」
「私、化学の教科係じゃないんですけど、どうして呼ばれたんでしょうか?」
「それはお前……アレだ」
土屋先生が、実に真面目な顔で呟く。
「気分」
「……左様でございますか」
さすが「俺が聡士を育てたと言っても過言ではないんだゼ」と自負してくるだけのことはある。一筋縄ではいかない。
そんな相手に勝てるわけもなく、そそくさと職員室を後にしようとしたときのことである。
「ちょっと待ってくださいよ、先生!」
「文句言うな。学級委員ならお前が行け」
同じ2年部の先生と男子生徒が、口論をしているらしい。
しばらく抗議をしていた男子生徒はやがて肩を落とし、職員室を後にした。
「何があったんでしょう?」
「ああ、どうやら欠席生徒にプリントを届ける役目で揉めていたようだ。城ヶ崎という生徒なんだが、お前、仲がよか……」
「失礼しましたッ!!」
くるりと踵を返して職員室を飛び出す。目指すはもちろん、あの男子生徒!
「ちょっとそこの人スト――――ップ!」
「はい? 何か……うわぁっ、紅林!?」
慌てふためきよろめいた男子生徒の胸倉を、とっさに掴んで引き戻す。
「わー! 俺何もしてませんけど何かごめんなさい!」
「あなた、城ヶ崎のところにプリントを届けに行くの?」
「ホントすみませんこんなところで死にたくない…………ってあれ?」
あー! ここは色々と説明しなきゃいけないんだろうけど、あえてスッ飛ばして!
「ねぇ、もしよかったら、私に行かせてくれない?」
「へ?」
――いいことを思いつきました。




