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【頼って】②

 

 お陽さまが一番高いところに昇っても、私のテンションは最低辺を低空飛行中。


 屋上でぼんやりと空を見上げ、何も考えないようにしたいのに、胸がズキズキ痛む。




「何してるの?」



「しばらく1人にしてって言ったよ?」



「うん、したよ。2時間」



「……その間、授業だったじゃない」



「授業中、ずっと上の空で1人の世界に入ってた。これもカウントのうち。ね、一緒にお弁当食べよ?」



「……ごめん。私はいい。食欲がなくて」



「お腹鳴ってるのに?」



「空腹だけど、食べたくないの」



「……そっか」




 静かに頷いた若葉くんは、私の隣に腰かける。




「だったら僕も食べない」



「え……!?」



「お腹空いたな~」



「いいよ、若葉くんは食べなよ!」



「それは無理だよ。君が食べないと僕も食べない」



「だから私のことは…………んっ!」




 ぱく。口の中に入ったなにか。ふわふわしていて、甘い……って!




「卵焼き、自信作なんだ。おいしかった?」




 箸を引いた若葉くんの笑顔に、顔が熱くなってしまう。




「そりゃあおいしいよ! 若葉くんが作ったんだもん。私のより断然上手で、むなしくなってきた……じゃなくてっ!」



「僕ね、食べ物をおいしいと感じるうちは、身体がそれを受け入れてるって思うんだ。


 意思がどうあれ、身体を優先するべきだよ。君は君だけのものじゃないんだ」




 若葉くんの言葉は優しい。なのに叱られているようだった。




「どうしてそんなに落ち込んでるの?」



「私……城ヶ崎に、ひどいこと言っちゃったから……」




 土屋先生が言っていたことを思い出した。



『孤独なヤツほど心の奥底では助けを求めていて、でもそれ以上に自分でどうにかしようって背伸びしてるってな』



 以前の私もそうだった。助けて、助けて! って心の中で叫んでいるのに、声にはならなかった。誰にも気づいてもらえないと思っていた。




「……お母さんが亡くなって、辛くないわけなかったんだ。


 本当に辛い人ほど、言葉じゃ助けを求められないんだって、私は知ってるのに……。


 ……それなのに私、お母さんに会いに行かなかったのを責めるようなことを言って、城ヶ崎を傷つけた……」




 助けを求めたいのに求められないのは、理由があるから。私がそうだったように。


 ……気づくのが遅かった。




「セラちゃん……」



「っ、甘やかさないで!」




 腕を伸ばす若葉くんが見えたから、とっさに距離を取った。




「優しくしないで! じゃないと、私……」




 お父さんに言われた。「頼むな」と。なのにこんなにも早く音を上げるなんて情けない。


 

 若葉くんが顔を歪めた次の瞬間――いつの間にか、私は彼の腕の中にいた。




「……え?」



「『甘やかすな』とか『優しくするな』とか、そんなものは関係ない。


 弱っている姿を前にして、どうして黙っていられる? 放っておけるはずがないだろう!」




 いつもの若葉くんとは違う。壊れ物を扱うようにそっと触れてくる感じではない。




「若葉くん……!」




 必死に身をよじって抜け出そうとするけど、返って痛いくらいに抱き締められるだけ。


 顔が熱いなんてレベルじゃない。火山が噴火したみたいだ。




「君がわかってくれないのなら、俺も君の言うことは聞かない。触れられたくなくても、俺は君に触れる」



「わ、若葉くん!」



「君が彼らのために痛みを負うことを拒まないなら、俺も一緒に負う。


 だから無茶はするな。助けを求めることをためらうな。せっかく俺がいるのに、独りで頑張ろうとするな!


 賢聖さんだって、君に独りで頑張れと言ったわけじゃないだろう!」




 怖いというより、彼の気遣いに胸が痛くてたまらなくなる。




「……なさい……ごめんなさい……」




 視界が潤む。唇を噛んで涙をこらえる。それでもせき止めきれなかった雫が、頬を伝う。




「言えなくて、ごめんなさい……!」




 若葉くんのことを避けているんじゃない。嫌っているわけがない。


 ただ夜空に煌く彼も、青空に輝く彼も、私にはまぶしすぎて……だから……だから!




「……頼り下手なので、許してください……」




 必死に考えても、出てくるのはこんなヘンテコな言葉だけ。




「わかってる。だから俺が助けに行くから」




 ヘンテコな言葉でもちゃんと聞いてくれる。……抱き締めてくれる。



 そんな彼の温かい腕に包まれて嬉しいと思える。



 だから、今の気持ちの十分の一のへたっぴな言葉でも、受け取ってほしいと思う。

 

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