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【頼って】①

 

「――っ!」




 机上の書類が巻き上がる。


 せっかく整理したカルテも、窓から侵入した非情な突風のおかげでまたごちゃ混ぜだ。


 今は、電子カルテという優れたものがあるのに……昔はこんな風に苦労をしたものだ。


 拾い集めようとして、手を止める。



 ……まったく、見なくていいものを見てしまったと思う。



 無意識のうちに出してしまったのだろうか。少なくとも、それを好んで目の触れるようなところに置く理由が八神にはなかった。


 カルテに刻まれた病に対して、どうすることもできなかった。対抗できる実力を備えた今でもやはり駄目だった。



 なぜなら、彼女はもういないのだから。



 けれど、本当に責めるべきは。あの仲のいい兄弟から母を奪ったのは。



 八神は無言で立ち上がる。



 今は罪悪感など感じている場合ではない。やるべきことがあるのだ。……もしそれを、詰られたとしても。


 事務室を出てロビーまで来ると、自販機前の携帯使用可能スペースでプッシュボタンを押す。


 きっちり3回コールの後、相手が受話器を取る。




「もしもし、私です。歩美ちゃん? ごめんね、まだ寝ていたところだったでしょう。


 たぶん聞いていると思うけど、少し困ったことになってね。そう、郁人くんが倒れて。


 せっかく頑張ってくれているみたいなのに悪いね。……あの男から、何もされていないかい?」




 問うと、何とも威勢のいい言葉が返ってきた。




「君を信じていないわけじゃないよ。ただ、囮まがいのことをさせてしまったのが申し訳なくて」




 それについては大丈夫! と彼女らしい返答があり、ひとしきり笑った後、声のトーンを落とす。




「――2人で決めたことだ。絶対にあの男の化けの皮を剥がす」




 もちろん、と返ってきた言葉に目眩がしたのは、疲れか。


 そうでなければさすが歩美ちゃんだと、改めて感服する。

 

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