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【発症、治療法なし】③

 

 着替えを済ませ、荷物をロビーに置く。


 勤務後、病室のある2階に上がり部屋を見て回る。それが八神の日課だった。17床しかない医院だ。それほど苦でもない。




「3号」と記された部屋へ入る。ここには高齢者が3名いる。




「お元気ですか。ミエさん、フデさん、ハナさん」




 八神の姿が見えると、ベッドに伏せっていた3人が一斉に声をあげた。




「先生!」



「おやまぁ、八神先生だわ」



「もうお帰りですかー」



「ええ」




 八神は微笑んで3人に歩み寄り、ベッドのそばに屈んだ。




「ねぇ先生、あの子は帰ったんですか?」



「あの子、というと?」



「若い女の子ですよ。えらく明るい色の髪の」



「……ああ、セラさんですか。はい、少し話をしてさっき帰られました。セラさんがどうかしましたか?」




 問うと、質問をしてきたミエに代わり、天真爛漫なフデが続ける。




「あの子、昨日入院した男の子のお見舞いに来たんですよねぇ。目立つから覚えてるんですよ」



「そう。あの子、セラちゃんていうの。にこにこ挨拶してくれるから、アタシたちもつられてねぇ」




 ハナの言葉に、3人は顔を見合わせて笑った。八神はホッと頷く。



 アレでもセラってすっげーいいヤツだから変な目で見んなよ!



 そう郁人に釘を刺された。


 なんだか嬉しい。そんな言葉が聞けたのは何年ぶりだろう。彼が誰かに懐くのは、母や兄、そして自分以外になかったから。




「私ではあまりみなさんにお構いできないので、楽しそうで何よりです」



「何を言うんですか。先生はいつも来てくれるじゃありませんか」



「そうですよ。お忙しいのに、迷惑かけてるのはこっちなんですから……」



「気にしないでくださいフデさん、 ミエさん。好きでやっていることですから」



「でもそうやってアタシたちに構うから、先生は自分の生活に気が回せないでしょ」




 ハナ言葉に、何だか怒られているような気分になる。30も半ばを過ぎた男が、1人で一体何をしとるのかと。




「はは……。大丈夫ですよ。私だって好きな人くらいいます」



「本当かしら。じゃあ念のため聞きますけど、看護師の水野さん?」



「違います」



「事務の片瀬さん?」



「違います。……というか、若い子ばかりじゃないですか」



「あら、熟女がお好みなんですか?」



「いえ、そういうわけでもないんですけど……」



「じゃあ誰なんです?」



「ハナさん、こういうときは強いですね……」




 彼女たちと話すと元気が出るが、時にそれが苦笑にすり替わったりする。


 女性はか弱いようで、賢く、強い。八神は降参の旗をあげることにした。




「……いるのはいるんですけれど、先日フラれまして」




 ハナ以下2人があちゃーと口を開けた。……自分でも心がとても痛い。




「……私も悪かったんですけどね。少しでも話す時間を取っていればと、今は後悔のみです」



「それはそれはお気の毒に……でも、先生ならあり得るわ。ボーッとしてる間にねぇ」




 悪気はないのだろうが、フデのふとした一言に胸がチクリ。慰め役はミエだ。




「気にすることないわよ、先生。また次がありますよ」



「いいえ。私には彼女しか考えられないんです。……女々しいですよね。すみません」




 肩を落とすと、さすがに本気で不憫と思ってくれたのか、3人が励ましの言葉をくれようとした。が、八神は笑って返した。




「ご心配なさらず。最近は特に忙しいですし、往診以外は出歩く暇もありませんので。私は今でも充実していますよ」

 

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