【発症、治療法なし】②
セラが行って10分、20分……いや。
もしかしたら、5分と経っていなかったかもしれない。
暗い布団の中でじっと息をこらす。
いけない。奇病にかかったようだ。しかも今回はどうも免疫がないらしい。
熱い。湯でも沸かせそうなくらい、とにかく顔が熱い。
たぶんウイルスを持ってきたであろう能天気バカの顔を思い浮かべると、無性に腹が立った。
きっと優しくされて脳が誤認しているんだ。こんなことで挙動不審になるなんてバカらしい。
なんだ? この病気は。意味がわからない。
……いや、違う。知っている。これが何なのか。
唇を噛み締める。
本当は、気づいていたんだ。一緒に泣いてくれた、あの夜に。
ぎゅっとシーツを掴む。
だから腹が立ったんだ。子供扱いして、こっちの気も知らないで抱き締めて、その気にさせるなんて。
――拷問か?
「……気づけよ、バカ」
そうでなきゃ、胸が痛くなるだけなんだから。
「――霧島?」
現実世界に引き戻された。
ベッドのそばに人の気配がある。でもセラじゃない。タダ先生でもない。
布団から顔を出し、電灯の光に目がくらむ。
目が明るい場所に慣れてくると、自分を見下ろしている人物の姿がはっきりとわかった。そこにいたのは、同い年くらいの男。
「お前は……誰?」
「ひどいな。覚えてないのか? 僕だ、クラスメイトの堀川」
「堀川……ああ」
いたっけな。そんなヤツが。
堀川は制服姿で通学鞄を提げている。
ダークグレーのシャツにシルバーのネクタイ。左胸には金糸で校章の刺繍。
久しく目にしていない、私立星麗学院の制服。ボンボン学校らしくやたらと派手で、正直言ってあまり好ましくはない。
だが目指すものを掴み取るのなら、制服よりも大事なものがそこにはあったのだ。
「堀川……は、こんなとこで何してんの? ウチじゃまだ授業あるだろ」
「はは、見舞いに来たんだよ」
「見舞い?」
そんなことされる仲だったか? こっちは顔も名前も覚えてなかったのに。
「最近休みがちだったろう。先生に確認を取ってもらったら、風邪だって聞いたから。
……こんなときに何だけどさ、学年首位の霧島がいないと、闘争心が削がれるんだよな。日々の授業レベルも気持ち下がってきてる」
「大げさだろ」
「またまた。秀才くんは言ってくれますね」
「……俺は秀才なんかじゃない」
堀川には悪いが、それはお世辞にしか聞こえない。自分の頭の出来はもともと飛び出てなんかいない。
努力に努力を重ねてもまだ足りないと思っているくらいだ。それを過剰評価されるのはプライドが許さない。
「……まぁ何にせよ、お前がいないと今度の中間考査の士気にも関わる。できるだけ早く復帰してくれることを願ってるよ、霧島。それじゃ」
手を振って出て行く堀川を、じっと見据える。
戻らなければいけない。そうは思う。
けれど、すぐ実行に移すことのできないむなしさが込み上げる。
すべてを片付けてからでないと戻れない。そうしないとアイツに迷惑がかかる。
……こんなときに、情けないと思う。後にも先にも、それしか考えられないのだから。




