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【発症、治療法なし】①

 

「こんばんはー!」




 病室に入ると、ベッドの上で読書をしていたらしい郁人くんが顔を上げた。




「セラ。学校帰りか?」



「うん。調子はどう?」



「昨日よりはいい。……ずいぶんと迷惑かけたみたいだな」



「いいよいいよ。それよりも早く元気になってね!」



「……ああ」




 薄く笑った後、郁人くんがじっと見つめてくる。




「なぁ、聞いてもいいか?」



「私で答えられることなら何でもどうぞ!」



「何かあった?」



「なんで!」



「いや……やけに元気だから」



「おかしいね。元気なら心配ないでしょ!」



「アンタの場合は普通とズレてるから、やけに元気なのがおかしいんだよ」



「やーね郁人くん、そんなこと言われたら傷ついちゃうよ。私の様子がおかしいんなら、たぶんそれは――はらわたが煮えたぎってるからだね!」



「……笑いながら言うことじゃねぇぞ、それ」



「ははは、しょうがないよー。抑えきれないんだよ、この怒り」



「まさかあんた、余計なことしたんじゃないだろうな」



「ふんふん、たとえば?」



「……兄貴に食いついたとか」




 笑顔のまま固まる私に、郁人くんがため息をつく。




「つくづく物好きだな……」




 ……私だって、色々頑張ったのだ。


 何度も話しかけて、突っぱねられても諦めずにもう一度、と。1日中続けたが、結局敵が落ちることはなかった。


 それどころか、突っぱねる度に厳しさを増す城ヶ崎の言葉にイライライライラして、笑うしかなくなった私の悲しい運命がコレだ。




「よく他人事でそんなムキになれるね」



「他人事じゃないもん! あんなにひどいことを言われたのに、郁人くんは悔しくないの!?」



「……悔しいよ。悔しい。今だって殴り飛ばしたい。だけどそんな体力ねーし。……それに」




 本当に悔しそうに言っていた。なのに、彼は笑った。




「アンタ見てるとどうでもよくなってきた」



「ダメよ! 嫌な思いをしたならちゃんと……!」



「とにかく! 俺はもういいんだ」




 ハイこれで終わり! と手で強制的に黙らされる。




「セラが俺の代わりに怒ってくれてるから、俺が怒る理由はない」




 諭すような口調は、彼をひどく大人びかせた。


 昨日、あんなに怒ってたのに。目に涙まで溜めて、あんなに叫んでいたのに……。




「だから、もう色々言わなくても……」



「郁人くんっ!」



「うわっ!?」



「わぁああん! 全然力になれなくてごめんねぇえええ!!」



「おい……」



「お姉さんは味方だよ! 何があっても私が郁人くんを守ってあげるからね!」



「っ、いつ俺の姉貴になった……っつーか、は、はっ……」



「は?」



「離せ――――っ!!」



「ああっ、ごめんっ!」




 反射的に手を離すと、郁人くんがぜーはー言いながら胸を押さえていた。




「……ったく、心臓に悪いったらありゃしない」



「え、心臓がどうかしたの?」



「いーや!」



「郁人くん? 顔が赤いよ?」



「熱がぶり返してきた! アンタのせいだ! 俺は寝るっ!」




 言い放つなり、ガバッと布団を被ってしまう郁人くん。そのとき、ちょうど八神さんが病室に入ってくるところだったみたい。




「おや? 郁人くんどうしたんですか?」



「さぁ……でも元気が戻ったみたいでよかったです。じゃあ私、失礼しようかな」



「もうお帰りですか? 郁人くん、セラさんが帰るって」



「……勝手に帰れば」



「そんなこと言わないで。見送らなくていいのかい?」



「いいんですよ、八神さん。顔を見られただけでよかったですから」




 そう言えば八神さんは「では、そこまでお送りしましょう」とおっとりした笑顔を浮かべたのだった。

 

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