【再会、そして衝突】②
そんな……城ヶ崎が郁人くんのお兄さんだなんて。
「このちび、お前の弟? マジかぁ。あれ、俺らもしかしてお邪魔……モガッ!」
「朝桐、お前はもうしゃべるな。行くぞ」
和久井くんに口を塞がれた朝桐くんは、日野くんに背中を押され、そのまま2人に連行されてしまった。
あとに残された私と若葉くんの目の前では、城ヶ崎と郁人くんが、まるで矢を射るように互いを見据えている。
「2年ぶりに弟に会っても何の言葉もないか。さすがだな」
「……何が言いたい」
「相変わらずだなってこと。俺だってアンタなんかに会いたくなかったさ。けど
――おふくろが死んだ。これを聞いても何とも思わないのか?」
城ヶ崎が身じろいだ。でもそれだけ。
「だから?」
「アンタは……平気だって言うのか。母親が死んでも」
「答えが必要なのか?」
「『答えが必要』? そんなこと問う前に、おふくろの心配するのが筋ってもんだろうが!」
「そうだろうな。だが親父に出て行かれ、無理して笑うことで自分の命を削る姿。それに何かを思うんだったら、惨めだ、それだけだな」
「――っ!!」
「郁人くんっ!?」
城ヶ崎の胸倉を掴んだ郁人くんは、形容しがたい憤怒に手を震わせている。
「おふくろの苦労をそんな風に……アンタ、昔はそんなんじゃなかったはずだろ」
「昔と今を混同するんじゃねぇ。迷惑だ」
「ふざけんなっ! 親父についてって頭がおかしくなったのか!? 幻滅した! そんな血も涙もないヤツだなんて思わなかった!!」
城ヶ崎が笑った。そう思ったら、郁人くんの手首を掴み、一気にひねり上げる。
「――――っ!!」
「郁人くん!?」
うずくまった郁人くんのもとへ駆け寄る。彼は手首を押さえながら唇を噛み締めている。
「お前の力なんざ知れたもんだ。間違っても俺に敵うなんて思うなよ」
「くそ……!」
「郁人、お前こそ何をしている? 叔母から聞いたが、お前、高校に入ってからあの女に反抗するようになったんだろ。
家出をして心配させた。あの女の寿命を縮めたのはお前なんじゃないか?」
「城ヶ崎、そんなひどいこと言わないで!」
「お前には関係ないだろうが」
「関係ならあるわ! 私は郁人くんが辛い思いをして頑張ってきたことを知ってるもの!」
「……なるほど。逃げ込み先は紅林のところか」
城ヶ崎はあごをしゃくり上げ、郁人くんを見下ろす。
「赤の他人に保護してもらっていいご身分だな。泣きごと言ってんじゃねぇぞ。お前は自分勝手な都合で関係ないヤツを巻き込んだんだからな」
郁人くんは俯き黙り込む。
今朝一番に「迷惑かけて悪かった」と謝られた。すでに引け目を感じていたのだろう。私は全然気にしていないのに……。
でも、そんなこと言ったって慰めにすらならなくて、力になれないことが悲しかった。
「もう、よしたらどうだ」
私たちの間に割って入った若葉くんが、真っ直ぐに城ヶ崎と対峙する。
「お前にも関係はないはずだが」
「確かに関係はない。だが彼女が泣きそうになっているところを黙って見過ごすことはできない。
もしこのまま郁人くんを傷つけて彼女を泣かせたら、俺はお前を許さない」
真剣な言葉は、私だけでなく、言外に郁人くんをも守るものだった。
「……いいだろう。だが、お前はまたそうやって守られているということを忘れるな」
鋭く言い放った城ヶ崎は、背を向け、もう振り返ることはせずに去って行った。
「……郁人くん、大丈夫?」
手を貸そうとしたけど、拒まれてしまう。郁人くんは無言のまま立ち上がった。
「………………ごめん、セラ」
「え?」
「ごめんっ!!」
「郁人くん!? 待って!」
とっさに追いかける。だけど郁人くんの足がすごく速い。
校門を出たところで、どこに行ってしまったのかわからなくなった。
「郁人くん……」
辺りを見回す。夕陽が落ちきった状態では、遠くまで見渡すことは困難だった。
どうしよう……焦りだけが前に出る。
ふいに、肩に触れられる感触がした。
「探しに行こう。夜なら任せて」
そう言ってくれる若葉くんの瞳は、頼もしい光を帯びているように思えた。