【一転して、喜劇】①
今日もいい天気だなぁ、と朝焼けを眺めていたときのことです。
「セラちゃん、おはよう」
「うん、おはよう。若葉く……」
窓ガラスから顔を戻して、硬直する。
そこにはいつもの笑顔があるわけだけど、もうひとつあるべきものがなかった。
「ごめんちょっと来てくれるかな若葉くんっ!」
私は若葉くんの腕を掴み、言いっぱなしで教室を飛び出した。
――……
マッハの速さで、密談に最適な資料室へ駆け込む。
用心深く室内の最深部まで若葉くんを連れて来ると、早速話の口火を切った。
「なんで? どうして眼鏡かけてないの!?」
「あはは……昨日さ、ちょっとした事故で眼鏡壊れちゃって」
「壊れた? じゃあなんで目が黒いの!?」
「雅宏さんにコンタクトをもらったんだ。眼鏡と同じ性能があるから、大丈夫だっていう太鼓判つき。似合わないかな?」
「いやっ、それは違う! 違うんだけどね!?」
自称・地味男の若葉くんは、たぶん自分の価値をわかってない。
眼鏡というある種の障害物を取り去った今の彼は、くっきりした目鼻立ちがあらわになっているというのに。
……これは大変なことになるぞ。
私の危惧通り、この日、光涼高校に黄色い嵐が吹きすさび始めた。
☆ ★ ☆ ★
「聞いた聞いた? 若葉くんって、眼鏡取ったらめっちゃカッコイイんだよ!」
「あたしも見た。誰よ、地味って言ったのはー」
「ねー! 話してみたいねー!」
「私、さっきすれ違ったんだけど……誰かと思った。意外と背も高かったし」
「ホント!? じゃあじゃあ、みんなで昼休みに話しかけてみようよー!」