【眼鏡の悲劇】②
化学室を後にした僕は、いまだ頭を悩ませていた。
僕が持っている『宝』とは何なのか? 考えるほどに謎が深まる。
「変なもの渡されるし、雅宏さんは何か企んでるし……セラちゃんは構ってくれないし。何なのかなぁ……」
心優しいセラちゃんのことだ、見るからに色々抱えてそうな郁人くんを心配してあげているのだ。それはいい。本人に気がないようだから。
だけど! それと自分が疎かにされるような事態に発展する因果関係がわからない! 今日だって一緒に帰ってたし!
「おーい朝桐、持ってきてやったぞー」
「でかした日野!」
「……何やってるんだ? お前ら」
「おお和久井、お前も入れ! 今から愛のキャッチボールの猛特訓だ!」
……雑音が聞こえるが、放っておいて。
「普段通りに接してるはずなんだけどな」
一緒に何かをするだけで楽しい。そう思うのに、それだけじゃ足りない。
――もっと触れたい。
それは彼女だから願うことで、彼女以外には考えられない。
だが、運悪く時期が時期だ、今は断念せざるを得ない。満月の夜はまた来るのだから……。
「……なぜこんなことを?」
「この間見たんだよ。セラちゃんが公園で楽しそうにキャッチボールしているとこを! これを習得すれば、俺たちのありとあらゆる可能性が肥大する!」
「つまり朝桐は、『共通の特技で話題発展』→『親しくなる2人』→『やがて2人は……』というシナリオを踏んでるわけ」
「それはあまりにベタじゃ……その前に、キャッチボールは1人じゃできないだろう!」
「あれは弟だ。セラちゃんの弟! きっとそうだと信じる!」
「そこからして、敗北は目に見えている気が、」
「わーくーい? 関係ないフリして、実はお前がセラちゃんをひそかに想うロマンチストだってこと、俺はちゃあんと知ってるんだぞ?」
「ひ、日野!」
「いいじゃないか和久井! どう見ても報われないポジションの俺らだって、3人力を合わせれば、あの不動明王にも勝てるんだって見せつけてやろうぜ!
つーわけで、とりゃ――――っ!」
……いつものことながら、馬鹿らしい会話だと思っていれば。
「おい待て、朝桐! そっちの方向は……!」
「へ?」
――――ガツッ!!
後頭部を衝撃が襲い、眼鏡が吹っ飛んだ。
痛む部分へと手をやる。痒い。
硬球を投げつけられたのだとわかったのは、コロコロと足元に転がってきたそれを目にしてから。
同時に、飛び散った破片が視界に入り、こめかみに青筋が浮かぶのがわかった。
僕は身体の向きを変え、ポカンとしている馬鹿の元へ歩いて行く。
「ああ、あ、朝桐! お前なんてことを……!」
「え? 硬球当たったのになんで平気そうなの?」
「何してる! 早く謝れ、土下座で! でないと……!」
「はっ、そうだ! えと、悪気はなかったから許し……ってどこから取り出しやがったその竹刀」
ゴチャゴチャ抜かしているようだが、ヤツに言いたいことはたったひとつ。
「朝桐、貴様…………今すぐそこに直れっ!」
――今日の僕は、非常に機嫌が悪い。