【いざ、尋常に!】④
突然、背筋を寒気が襲った。
気づいたときには豪快なくしゃみが一発。
「……くそ……面倒くせぇ」
疼く鼻を押さえながら、これだから季節の変わり目はごめんなんだと、やつあたりまがいのことを思う。
「あっれー隼斗くん、もしかして風邪~?」
背後から聞こえてきた艶のある声に、条件反射で頬が引きつった。
「安心して? 未来のお母さんが優しく看病してあ・げ・る」
「冗談じゃねぇ!」
「もう、照れちゃって!」
そっぽを向くが先回りされ、妖艶な女が姿を現す。
何度も思うが猫みたいな女だ。ただし化け猫。
「……なんつー薄着してやがる……」
「あっ、ごめーん。今起きたばっかなの」
化け猫はわざとらしくキャミソールの裾を整え直した。その割には、ばっちり化粧は済んでいるようだが。
「もう夕方だっつーの」
「えー、仕方ないじゃん。お店夜からなんだも~ん」
「おい、くっつくんじゃねぇ」
「そういうつれないトコロ、あたし好きよ♪」
「――離せ」
さすがに我慢の限界で、睨みをひとつ。すると化け猫はあっさり腕を解いた。
「うふふ、これ以上怒らせたら怖いものね」
いつもと違う仕草に不審を覚えると、化け猫はふと思い出したように続ける。
「そうそう隼斗くん、新しい家族、ほしい? あ、もちろんあたし以外の話ね」
「なっ……ふざけんのも大概にしろよ!」
「隼斗くんは反対、っと。わかったわ。じゃあお父様に言っておくわねー」
イラつくしかない能天気な笑みを残して、化け猫は去って行く。
「……もう勝手にしろ」
アイツと化け猫のことを考えるくらいなら、無駄な時間と気力と体力を消費したと後悔するほうがまだマシだと、ため息を漏らした。