【プロローグ】(表紙絵あり)
ブーッ、ブーッ。
AM7:00――突然、ブザーがキッチンまで鳴り響く。私は慌てて、身につけたばかりのエプロン姿のまま玄関へと向かった。
「こんな朝早くに、誰?」
不審を抱きつつチェーンを外しドアノブをひねると、そこには――
「おはようゴザイマス」
大きなボストンバッグを提げた少年が、なぜか泰然と構えていました。
栗色のクセッ毛。ちょうど同じ目線の黒目勝ちの瞳。中性的な顔立ち。
見たところそう歳は変わらないようだけど、Tシャツの袖からのぞく腕は華奢すぎやしないか。
「えーと、どちら様でしょう?」
「俺は霧島郁人。ども」
「あ、ども。初めまして」
「アンタ、紅林瀬良?」
「そうですけど……」
「ふぅん、ホントに金髪なんだ」
ギクッとした私なんかお構いなしに、少年は「まぁ、俺には関係ないけど」と視線を外す。
「……なにかご用ですか?」
「ひょっとして、オトーサンから何も聞いてないわけ?」
「おっ、お父さん!?」
その単語を聞くと焦る。見ず知らずの人からなら尚更!
「ごめんなさい。あいにく父はインドへ紅茶を買いに行ってて……」
「それは知ってる。お邪魔するよ」
「えっ?」
少年は靴を脱ぐなり、勝手知ったる我が家とばかりにスタスタと家の中に入ってくる。
「へぇ、思ったより広いじゃん」
「ちょ、ちょっと待って! あのっ、これはどういうことなんですか!」
リビングで室内を見回す少年に追いつく。おろおろする私を振り返り、彼は至極当然のようにこんなことを宣言した。
「俺、今日からここで暮らすから」
「………………はいっ!?」